「間に合ったな。」
「…ぎ、ギリギリだけどね。」
手を出さないと言っていたものの、それは一緒にお風呂に入ったとき限定だったようで、魅力的な露天風呂に虜になっていた俺の後ろから抱き付いてきたりと、高瀬は色々とセクハラ紛いのことをしてきた。
「俺が居るのに、他のもんに気を取られてるんじゃねぇよ。」とか少し拗ねながら首筋に吸い付いてきた高瀬。力の差は歴然で、振りほどくのに時間が掛かってしまい、集会に遅れてしまいそうになってしまったのだ。
「高瀬の場所はもうちょっと前だろ?」
「ここがいい。」
「……え?」
「仁湖の、…隣がいい。」
「………っ、」
ギュッと下の方で手を握られ、俺の身体は大袈裟なほどに震えた。誰かに見られているか分からないのに。俺達がいくら仲がいいと学校中から知られていようとも、“そういう意味で”知っている人は多分居ないと思う。…うん、多分。
「こ、こらっ。高瀬…、」
「……旅行中くらいは我侭言ってもいいだろ?」
「ダメだって。…ほら、高瀬は前の方に…」
「…俺の我侭、聞いてくれねぇの?」
あぁもう、ずるい!
そんな捨てられた子犬のような表情をされたら、強く言えないじゃないか。高瀬からこうしてこんな風に甘えてきてくれるのって滅多にないことだし。
「…しょうがないなぁ。」
「仁湖、」
「でもちゃんと俺の隣の人には、場所交代すること自分でお願いしなよ。」
「ああ。」
高瀬のダークブルー色の柔らかい髪を撫でながらそう言えば、高瀬は笑みを浮かべた。
格好いいくせに、可愛いなんて卑怯だ…。
あ、こら。高瀬それは「お願い」じゃなくて「脅迫」になってるぞ!
「……ったく」
だけどそんな様子すらも、今では微笑ましく思えてしまう。これが旅行パワーだろうか。
そして高瀬は俺の隣に座る。
丁度いいくらいに、集会も始まった。集会の内容は明日から行われるスキーについての注意事項などだ。
「……ん?」
集会が始まって数十分が経ったくらいだろうか。
教師からの話を眠たい目を擦りながらぼけーっと聞いていると、隣に座っている高瀬が何故か自分の肩をポンポンと数回叩く。
「どうした?」
声を潜めながら高瀬の行動の意味を訊ねる。
そうすれば高瀬も俺と同じように声を潜めて訳を話してくれた。
「俺の肩に寄り掛かれよ。」
「……へ?」
「眠たいんだろ?」
「え、…う、うん。」
「ほら。」
「で、でも…」
俺は慌てて周りを見る。後ろの人も前の人も横に居る人も、視界に入る人は大体顔を伏せて眠っている。
「誰も見てねぇから。」
「…高瀬」
「ほら、来い。」
「う、うん。」
俺はお言葉に甘えて高瀬に寄り掛からせてもらうことにした。すると高瀬は俺が寄り掛かっている方とは逆の手で俺の頭をグシャグシャと撫でてくれた。
……撫でるのも好きだけど、やっぱり俺は高瀬に撫でてもらうほうが好きだな。
そう思いながら、俺は高瀬の優しい手付きに絆されながら浅い眠りについたのだった。
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