「あ、ありがとう。」
「ああ。」
高瀬は寝ていた俺をバスから振り分けられていた部屋までおんぶをして運んでくれた。決して俺は軽くはない。…確かに高校生男子の標準の身長はないけれども、華奢で可愛い女の子とは身体の作りが違うのだ。
高瀬には重たい思いをさせてしまったけれども、…俺は凄くあの時間が幸せだった。
思わずこのまま時間が止まってしまえばいいと思うほど。
「後はこのまま集会まで、各自の部屋で待機らしい。」
「…うん。」
「……風呂、見てみるか?」
「……っ?!」
確かに高瀬は最初から言っていた。
“楽しみだな、特に露天風呂”と。
修学旅行費が高いなりに、いい宿に泊めさせてもらっているのだ。多分パンフレットに載っていたものより、ずっとずっと魅力的なのだろう。
露天風呂は確かに俺も楽しみだ。
…楽しみだけれども、やっぱり一緒に入ったりするのかな?
どうやら一緒にお風呂に入ったことがあるようだが、そのとき俺は意識を飛ばして覚えてもない。
「えっと、その…」
「見るだけだよ。…んなに、緊張されるとこっちまで緊張が移る。」
「…ご、ごめん」
「ほら、…来い。」
「う、うん。」
俺の手が高瀬の大きな手の平に包み込まれる。
その手はいつもとは違って、ほんのり湿っていた。…どうやら本当に俺の緊張が高瀬にまで移ってしまっているようだ。
だけど俺なんかを意識してもらえるのは、嬉しいかもしれない。俺も高瀬の手を握り返した。
「…わぁ」
「中々いいな…」
「中々じゃないよ。凄い、綺麗!」
そして目の前に広がる光景に俺は歓喜の声を上げた。
辺りの雪景色が見渡せる絶景。こんな綺麗な景色を見れたままお風呂に入れるなんて、嬉し過ぎる。
「…後で、一緒に入るか?」
「……た、かせ」
「手は出さねぇよ。」
「……、」
「…何だ、出して欲しいのか?」
「え、…ち、違…っ」
まさか高瀬から手を出さない宣言をしてくるとは思っていなかったので驚いていたら、からかわれてしまった…。
「冗談だ。」
「も、もう…っ」
ああ、でもやっぱり旅行というものはいいものだとつくづく思う。
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