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「えっと、…だからちょっと寝かせて?」



クラスメイトの視線も気になる。それに早く楽になりたい。例え寝れなくても目を閉じるだけで、かなり楽になるはずだ。
言い争う高瀬と桐生君にそう伝えれば、何故だか二人は同じように鼻を押さえた。




「…どうかした?」

「「(何か台詞がエロい…っ)」」

「…え、何?」

「「…な、何でもねぇ」」

「…?」



息がぴったりの二人。
意外と仲が良いのかな、と思いながらもその事を口に出せばまた一波乱起きそうな予感がしたので、俺は黙っておくことにした。
二人のお陰なのか、二人の所為なのか、…バス内は未だに静かだ。俺なんかのせいで、クラスメイトの楽しい一時を奪ってしまったのは本当に申し訳ないと思っている。だがこの静かさが今の俺にはベストだ。
この様子ならば、すぐに寝れそう…。



「………、」


そう思って壁に寄りかかって目を閉じる。
すると俺を気遣ってか、高瀬と桐生君の潜めた声が聞こえてきた。


“その席寄越せ、クソ野郎。”

“…ここは俺の席だ。”

“てめぇなんかは、地面がお似合いだ。”

“…っ、早く自分の席に戻りやがれ。”

“仁湖の隣が、俺の席だ。”

“…何様のつもりだよ?”

“…………”


桐生君の言い分はもっともだ。俺だって高瀬の隣席じゃなくて少し残念に思っているけど、この席順は俺たちが居ない間に決まってしまったことだ。今更とやかく言ったって仕方がない。
だがしかし、どちらが言い負けするのか気になって眠れずにいるのも確か。意外にも先に高瀬が無言になったのかと思っていると、…いきなり身体が宙に浮いたことにびっくりして俺は目を開ける。



「な、何…っ?!」



俺の身体を持ち上げたのは、言うまでもなく高瀬だ。決して軽くはない俺の身体を軽々と抱き上げると、俺が座っていた席に高瀬は座った。



「高瀬…?!」


そして席に座った高瀬の膝の上に俺は無理矢理座らされた。
な、何ですかこの状況は?!公開羞恥プレイですか?!


「ば、馬鹿…っ。何して…、」

「…いいだろ?」

「よ、良くないよ…っ」



隣に居る桐生君もびっくりしている。
そりゃそうだ。いきなり男同士がバカップルのような座り方をしているんだから。
俺は恥ずかしくて堪らなくて、酔いが回るのを承知の上暴れた。



「……彼氏の特権だろ?」

「………っ、」



耳元で、ギリギリ桐生君にまで聞こえてしまいそうな小さな声で囁かれた。
「彼氏の特権」だなんて。そんな嬉しい言葉を使われれば抵抗なんて出来なくなってしまう。



「…ほら、仁湖。」

「な、なに…?」

「…寝な。」

「……ぁ、ぅ…」



恥ずかしい、恥ずかしい。
だけど羞恥よりも嬉しいと思っている自分が居る。何故か悔しそうにギリッと音を立てて歯軋りをする桐生君にこの馬鹿みたいに赤くなった頬を見られないように、俺は顔を横に向けて再度目を閉じた。
背中から伝わる高瀬の温かい温もり。
時々頭やら横腹を優しく撫でてもらいながら、俺はあまりの心地良さにそこで意識を飛ばした。



でも何で、桐生君は俺が寝るまでずっと手を握ってくれたのだろうか…?




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