「………、」
やばい。
何か気持ち悪くて、泣きそうになってきた。
呼吸が荒くなり目元には涙が溜まる。どうしようもなく深呼吸を繰り返していると、何と隣に座っていた桐生君が俺の背を撫でてくれたのだ。
「……き、りゅう君?」
「…………」
何も言わずただただ俺の背を撫でてくれる。無愛想ながらも優しい桐生君の行動に俺は少し感動してしまった。
「あ、ありがとうっ」
「……ふん」
車酔いが治ったわけではない。頭がガンガンするし、吐き気もする。だけど桐生君のお陰で、少しだけ楽になったような気がする。
息を吐き目を閉じて、このまま寝てしまおうと思っていたら、急に激しい音がバス内に響き渡った。
「………」
「………」
ざわざわと楽しそうにしていたクラスメイト達は、一瞬にて静まり返った。音がした方向を見ると、予想通り。
そこには桐生君を睨み付ける、高瀬が居た。
「…触んな」
「……お前に命令される筋合いはねぇ。」
「え、…あ、ちょ…」
まさか桐生君が高瀬に歯向かうとは、俺を含む皆思っていなかっただろう。俺はずきずきと痛む頭を押さえながら、険悪な二人を間に入る。
「だ、駄目だよっ」
「……仁湖、顔色が悪い…?」
「え…、いや、大丈夫だから、二人共落ち着こう。…な?」
どうやら高瀬は俺の顔色を見て、具合が悪い事に気が付いたらしい。だけど今は二人の喧嘩を止めないと。二人共優しいから殴り合いにまで発展はしないと思うけど、早く止めたほうがいいに決まっている。
「…仁湖大丈夫か?」
「お前が入って来なければ、まだましだったんだよ」
「あ゛?」
「中村の顔色、…悪くなってる」
「…………仁湖」
「ほ、本当に大丈夫だよっ」
…嘘。
全然大丈夫じゃない。
桐生君の言った通り、先程よりも辛くなってきた。
酔ってるときに大声出すもんじゃないな。
「…悪い、俺の所為だな。」
「ち、違…っ、高瀬の所為じゃないよ」
「だけど…」
「ちょっと休めば楽になると思うし…」
「………」
だからちょっとだけ休ませて欲しい。それに何だか皆の視線が集まっていて、凄く恥ずかしい。
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