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楽しみ、そう言ったもののこのバスに乗っている時間は俺にとって苦痛でしかない。

一番の理由は、高瀬との距離が遠いということだ。

俺と高瀬が二人仲良く学校を休んでいるときに、バスの席順はくじ引きで決まったらしい。そのため高瀬と隣の席ではない。
…少し、寂しく思える。

二番目の理由。
それは俺が乗り物酔いしやすいということだ。
電車、飛行機は大丈夫だけど、車、新幹線、船は酔ってしまう。



「…………、」


大人しく酔い止め薬、飲んでおこう…。
悲観していても仕方がない。酔い止め薬を取り出そうと、緊急時のために持ってきていた、色々な種類の薬が入っているポーチを鞄から取り出す。
しかし酔い止め薬は一向に見つからない。解熱剤、腹痛止め、そういったものはあるのに、目当ての酔い止め薬が見つからないのだ。


も、もしかして忘れてしまったのだろうか…。


あんなに何度も何度も忘れ物がないかチェックしていたというの、大事な物を忘れてしまった。



「…さ、最悪……」


酔い止め薬がないと分かった瞬間、何故だか気持ち悪く感じてしまうのは何故だろう。下を向いていた所為なのか、それとも心の問題なのか…。

隣に座っている桐生君。
前に一度だけ教室で話したことがある。
酔い止め薬持っていないかな…?
で、でも訊くの怖い。俺が話し掛けても怒らないかな…。
俺は意を決して桐生君に訊ねてみた。




「あ、…あの、き、桐生君、」

「…………」

「……あの…?」

「…俺…?」

「う、うん。」


良かった。いきなり話し掛けた所為か驚いているだけで、怒ってはいないみたいだ。



「あのさ、酔い止め薬とか…持ってる?」

「……俺が持ってるように思えるか?」

「思え、ない…」


やっぱり持ってないのか。
どうしよう、誰か持ってないかな…。



「……おい、」

「な、…何?」

「…他の奴等に、訊いてやろうか?」

「いいの…?」

「……ああ。」

「あ、ありがとうっ」

「………っ、」


いい人だ。
やっぱり外見が不良だからって、中身まで判断しちゃいけないよな。
酔い止め薬って、すでに酔ってしまってから飲んでも効果あったかどうか思い出しながら、俺は少しでも楽になるため目を閉じた。





「……なか、むら…」

「…ん」

「誰も持ってねぇって…。」

「そっか…。わざわざありがとう。」

「…いや」


不良の人達は車酔いなんてしないのかな?
それとも車酔いしようとも、薬なんてものに頼らないのかな?


ああ、やばい。
気持ち悪い…。






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