「お、俺、ちょっと洋服見てくるっ」
これ以上平静で居られる自信がない。
高瀬の隣を歩けて、手を繋げて、デートが出来ている。幸せな事がこうも重なると、心臓に悪い。しかも今の高瀬はちょっと意地悪だ。
だからその場を逃げるように、俺は苦し紛れな言い訳を使って高瀬と距離を置いた。
「ちょっとだけ、待ってて。」
「……分かった。」
「……………」
そう言うと高瀬は離された手を残念そうに見つめてから、優しげな目で見送ってくれた。しかしこうも残念そうな顔をされると、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。…ほ、本当は俺だってもうちょっと高瀬と手を繋いで居たい。
…繋いで居たいけど、やっぱり今の俺には心臓に悪過ぎる。勿体無いことをしてしまったと思いながら店に立ち寄ろうとしていたら、急に高瀬から呼び止められた。
「仁湖。」
「な、何…?」
「少しこっちに来い。」
「…………?」
手招きされ戻って来いと言われて、俺はそれに素直に従う。
「どうかした?」
そのまま高瀬はすぐ近くにあった薬局に足を踏み入れる。俺も高瀬の後に続いて店の中に入った。すると高瀬はある商品の前で足を止めたのだ。
「………っ?!」
高瀬が手に取った商品に、俺はおもわず顔を真っ赤に染めてしまった。
「な、…何して…、」
「一箱で足りると思うか?」
顔を真っ赤に染めて照れる俺。
そして俺の様子を見て明らかに楽しんでいる高瀬。
……本当に高瀬は意地悪だ。
「ば、馬鹿…っ」
「…顔、真っ赤。」
「うるさい…、」
「可愛い。」
…そう。
高瀬が手に取ったのは「コンドーム」。
しかも0.02mmという“極薄”という文字が書かれた箱。
「せ、セクハラだぞっ」
「愛があれば、許される。」
「許されないよ!」
俺の罵声を浴びながらも、その箱から手を離さず、それどころか色々な種類のコンドームを手に取りレジへと足を向ける高瀬。
「仁湖。」
「……な、何だよ…」
「旅行、…楽しみだな。」
「………っぅ…、」
ニヤリと笑ってお金を払う高瀬。
…ああ、本当に心臓に悪い。
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