高瀬の悲痛な表情が見たいわけでもない。
謝罪の言葉が聞きたいわけでもない。
俺は高瀬が好きで好きで堪らないから、ずっと笑っていてほしいくらいだ。
「ね、高瀬?」
「…どうした?」
「あ、あのさ、」
「……?」
「その、…き、気持ち良かった…?」
昨日のことで唯一不安な点を挙げるとしたら、これしかないだろう。高瀬も俺もお互いが初めてだった。比べる相手も居ないし、居たとしても比べることはしないだろうけど、…やっぱり高瀬がどう感じたのかは気になる。
最中の時は自分の事だけで精一杯で、ずっとみっともなく喘いでいたような気がする。俺はあのまま溶けてしまいそうなくらい凄く気持ち良かったけど、はたして高瀬も気持ち良くなってくれていたのかが不安だ。
「…た、かせ…?」
「馬鹿、…気持ち良くなけりゃ、あんながっつきはしねぇよ。」
「………っ、」
コツンと俺の頭を軽く叩く高瀬の頬は、ほんのりと赤くなっている。多分照れ隠し故に俺の頭を叩いたのだろう。
「ほ、本当?」
「……あぁ。」
「良かったっ。」
「…………」
俺だけの自己満足ではなかったのだと分かり、凄く嬉しい。何も出来ず高瀬にされるがままだったけれど、高瀬に喜んで貰えたのなら幸いだ。
そして高瀬はというとぶっきら棒にそう言い放つと、何かを思い出しているかのように右上に視線を彷徨わせていた。不思議に思い声を掛けようとした瞬間…、
「……わっ…?!」
なんと高瀬は鼻血を噴き出したのだった…。
「ちょ、た、…高瀬…?!」
「……っ、仁湖が…思い出させるから…」
「…はぁ?」
「あぁ、…クソ。エロい…っ」
「…な、何考えて…、」
どうやら高瀬曰く、昨日の事を思い出して鼻血を噴出したらしい。何で昨日の最中は大丈夫だったのに、今更になって鼻血なんか出すんだよ。
…というか昨日の俺を思い出すのは恥ずかしいから、是非とも止めて欲しい。
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