「たかせ、…じゃないや、葵どうした?」
「っ、…だから、少しだけ黙ってろって…っ」
「…………?」
何処か焦りを含んでいる高瀬の声。
自分から「名前を呼んで」って言った癖に、何で止めるんだよ…。
どうやら高瀬は、口を押さえられて不機嫌になった俺に気付いたようだ。
そうするとゆっくりと俺の口元から手を退かしてくれた。
「……名前呼ばれるの嫌だった?」
「…違ぇよ……。」
「だったら、何で…?」
「……っ、だから、…それは…、」
「それは…?」
しつこく理由を訊ねると、赤くなっていた高瀬の頬は更に赤みを増した。
「…葵、顔真っ赤だよ?」
「…ば、馬鹿野郎!仕舞いには犯すぞ…っ」
「へ…?」
「あぁ、…糞っ。余裕ねぇな、俺も…」
「……?」
どうやら高瀬君は余裕がないようです。
確かにこんな風に慌てている高瀬の姿を見るのは久しぶりかもしれない。
いつもは高校生とは思えないほどに、落ち着いているし紳士なのだけど…。
やっぱりこうやって見ると、高瀬も普通の高校生なんだなって思う。
「…仁湖、」
「え、何?」
「やっぱり俺のこと名前で呼ぶの禁止。」
「……な、何で?!」
「…何ででもだ。」
少し恥ずかしいけど、俺は高瀬のことを名前で呼ぶのは凄く好きだ。
「葵」って呼んでいると、凄く幸せな気分になれるから。
……それなのに、それなのに、呼ぶのは禁止だなんてあんまりだ。
ちゃんとした理由がない限り、俺は絶対認めない!
「嫌だ…っ」
「…仁湖」
「俺、葵って呼びたい!」
「………っ、」
「何で高瀬は呼ばれるの嫌なんだ?最初に呼んでくれって言ったのは高瀬じゃんか…。」
「だから、それは……」
そう言えば、高瀬は気まずそうに俺から視線を外した後…、すぐに俺の方に向き直る。
…そのときの高瀬の視線は、いつもより鋭く思えた。
そして高瀬は膝の上に乗っている俺の背中に衝撃が加わらないように、ゆっくりと押し倒してきた。
「……な、何…?」
「……だから、」
「…?」
「仁湖から名前呼ばれると、
……発情するから…、」
その台詞を聞いて、俺は高瀬に負けないくらいに頬が赤くなったのが自分でも分かった。
219/300