「た、高瀬、…ちょ、ちょっと…っ、」
「目、瞑ってろ。」
「………っ、」
耳の中に息を吹きかけられて、舐められる。
そのまま耳元で甘く低い声で囁かれれば、従わずにはいられない。
次第に自分の頬が熱くなってくるのが分かる。
「…ぁ…、」
そして再び、高瀬は俺の唇を指の腹で撫でる。
ゆっくりとした優しい動きが余計恥ずかしくて堪らない。
あまりの羞恥に、度が合っていない眼鏡の所為ではなく、クラクラしてきた…。
「た、…かせ……」
「……可愛い、仁湖…」
「ん、…ゃ…」
「愛してる…」
胸が締め付けられるような嬉しい台詞。
それと同時に高瀬の熱い吐息が唇に掛かる。
……ということは、高瀬の顔が近いということで…、
そう理解した瞬間、指よりも柔らかく、そして指よりも熱い物が、…俺の唇に触れた。
「……ン、…ふ、っ」
「仁湖…、」
「…ぁ、…っ」
目を閉じていても分かる。
…これは高瀬の唇だ。
深いキスではなく、軽く触れ合うだけの優しい口付け。
チュッ、チュッ…とわざとらしく音を立てながら、高瀬は何度も啄ばむように唇を重ねてくる。
「た、かせ…ぇ」
目を閉じている所為で、敏感になり過ぎているのかもしれない。…本当にやばい。
煩いほどの自分の心臓の音、キスする度に聞こえるリップ音、高瀬の体温に息遣い、…全てが俺の理性を剥ぎ取っていく。
たったこれだけで勃起してしまいそうになり、俺は必死に理性を保って我慢する。
「………っ、」
…そして我慢すること数分間。
高瀬は満足したのか、最後に俺の唇をペロリと舐めた後、離れて行った。
少し残念のような、物寂しいような気持ちに陥る…。
それほど俺は高瀬に依存しているのかと思うと、余計に恥ずかしくなる。
これ以上赤くなった頬を高瀬に晒しておくのが恥ずかしくて俯いていると、掛けていた眼鏡を外された。
「…目、開けていいぜ。」
「…………」
…俺はゆっくりと目を開く。
真っ暗だった視界に、光が入る。
視界に移るのは青い空と白い雲、……そして優しい笑みを浮かべている高瀬。
「仁湖、顔真っ赤だな。」
「…う、煩い…、見るな…っ」
「やっぱり仁湖は可愛い。」
「可愛くなんてないし…っ」
俺は今、一体どんな顔をしているのだろうか?
きっと林檎のように真っ赤になっていて、みっともないと思う。お世辞だろうが、高瀬はそんな俺の顔を見ても“可愛い”と言ってくれる。
…それがまた俺の頬を赤く染める原因なのだ。
「…仁湖は眼鏡も似合うな。」
「俺みたいな平凡には似合わないよ。」
「いや、凄く可愛かった。」
「……か、可愛くなんかないったら…、」
「でも、あれだな…。」
「………?」
高瀬は持っていた眼鏡を制服のポケットにしまう。
眼鏡を掛けた高瀬が見れないと思うと少し残念に思うが、俺の心臓のことを思うと良かったのかもしれない。
「……眼鏡を掛けた仁湖も可愛かったけど、
キスするのには邪魔だな。」
……あぁ、クラクラするのは度が合わない眼鏡の所為だけではないのかもしれない。
きっと高瀬といる以上は、この動悸・眩暈からは解放されないだろう…。
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