最高の殺し文句








「…屋上?」


そう、高瀬は屋上で足を止めた。階段を上がっていくにつれて、おおよそ何処に行くかは予想は付いていたものの、まさか本当に高瀬が俺を屋上に連れてくるとは思っていなかった。


「…俺、屋上に来るの初めてだ。」

「喜んで貰えたようで良かった…。」


少し子供のようにはしゃぎ過ぎたかもしれない…。
先程とは比べ物にならないほど喜びはしゃぐ俺を見て、高瀬は優しい笑みを浮かべている。

妙に恥ずかしく感じるが、仕方ないと俺は思う。
…だってそれほど屋上は魅力的なんだ。

俺は恐る恐る屋上へ足を踏み入れた。



「高い、…それに風が気持ちいい…。」

「寒くねぇか?」

「うん、大丈夫。」

「…寒くなったらすぐ言えよ。」


高瀬は俺の頭を数回ポンポンと叩いて、優しい言葉を掛けてくれる。
こういう紳士な対応がスムーズに出来る高瀬は凄く格好良い。


「…あ、のさ…?」

「……ん?」

「…その、高瀬はいつまで眼鏡掛けてるの?」


決して高瀬が眼鏡を掛けている姿が嫌いなわけではない。
むしろ格好良すぎてやばいくらいだ。

格好良すぎるゆえに、俺は直視出来ないのだ。



「仁湖も眼鏡掛けてみるか?」

「は…?えっ?…あ、いや俺はいいよっ」


俺みたいな平凡なんかが、オシャレアイテムの眼鏡を掛けたところで何も変わりはしない。
むしろおかしくなるくらいだろう。


「掛けてみろって。」

「お、俺はいいって」

「仁湖が眼鏡掛けているところ見てみたい。」

「でも、俺は両目とも視力2.0だし…」

「少しだけ、…いいだろ?」

「………っ、」



そんな風に言われたら、断れない。
拒否の言葉を止めれば、高瀬は楽しそうに笑って掛けている眼鏡を外す。
そしてその眼鏡をゆっくり俺に掛けた…。


「…可愛い…っ」


視力がいい俺にとって高瀬の眼鏡は度が強すぎて少しだけクラクラする。
目を回していると頭上から、少し上ずった高瀬の声が聞こえてきた。


「…仁湖、やばすぎ…、」

「た、高瀬…?」

「俺のもので、眼鏡ごと汚してやりてぇ…」

「へ…?よごす…?」

「あ、いや…こっちの話だ…」

「………?」


俺は挙動不審な態度を取る高瀬に疑問を持ちつつも、とりあえずこのぼやけた視界から脱出したくて、眼鏡に手を掛ける。


「…暫く掛けてろよ。」

「で、でも…、クラクラする…」

「目、閉じてろ。」


高瀬の助言通り俺は静かに瞼を閉じる。 そうすれば視界からの情報がなくなったぶん、俺の身体が他の器官から敏感に情報を得ようとしているのが分かる。



「…っ、ァ……」


高瀬の指が俺の頬を撫で、…そしてゆっくりとした動きで俺の唇をなぞる。





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