「…だ、騙したな…っ」
「まさか本当に騙されるとは思わなかった。」
くくっ、と肩を揺らしながら声を噛み殺して笑う高瀬。そんなに笑われると、凄く恥ずかしい。
「た、高瀬が嘘を教えるから…っ、」
俺は教師から怒られ、クラスメイトからは馬鹿にされるように笑われてしまったのだ。
どうしようもない怒りと羞恥に、俺は高瀬の肩を叩いた。
だが高瀬は全く堪えておらず、未だ楽しそうに笑っている。
「そんなに怒るな。」
「…怒るに決まってるだろ…」
「どうしたら許してくれる?」
「……………」
“どうしたら”…。
そう言われると、色々なことを要求したくなる。
それは健全なものではなく、不健全なものを…。
「……ゆ、許さない…。」
だけどそんな邪な思いを考えていることを高瀬に気付かれたくない。
だから素直でない俺は、素っ気無くそう言い放つ。
……しかしそんな態度を取る俺に嫌そうな態度を取ることなどせずに、優しい笑みを浮かべている高瀬。
「仁湖、抜け出そうぜ。」
「……俺は誰かさんの所為で、立たされてる。」
「関係ねぇだろ。」
「駄目だよ、また怒られちゃうだろ。」
「……分かった、許可を貰えばいいんだろ。」
「ちょ、た、高瀬…?!」
そう言うと高瀬は、再び教室の中に入って行った。
一体どんな事をするつもりなのか…。
俺はただ口を開けて、呆然とするしかなかった。
…そして待つこと一分弱。
高瀬はすぐに廊下に戻ってきた。
「…俺と仁湖は授業抜けてもいいそうだ。」
「ちょ、な、何を言ったわけ…?!」
「……企業秘密だ。」
ニヤリと笑う高瀬に、教師への同情心が湧く。
「あんまり教師を苛めるなよ…。」
「苛めてねぇよ。」
高瀬は俺の手を掴むと、歩き出す。
一体何処に行くつもりなのだろうか…。
シン…とした廊下を歩くのは少しドキドキする。
今は皆授業中。
それなのに俺達は授業を抜け出して、いけないことをしようとしている。
背徳心が余計に興奮する。
俺は高瀬の手を更に強く握り返した。
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