「あ、…その、えっと…」
「何だ?こんな問題も解けないのか?」
な、何だよ、ちくしょう。
高瀬や他の不良生徒だったら問題すら当てられないビビり教師のくせに…っ。
害のない俺で、ストレス発散かよ…。
「……仁湖……」
「…え?」
焦っていた俺に、誰にもバレないようにこっそりと声を掛けてくる高瀬。
高瀬を見てみると何かを俺に伝えようとしている。
小さい声だったので、聞き取るのに難しかったが、どうやら問題の答えを俺に教えてくれているようだ。
「…中村、まだか?」
「…い、いえ、解けました。」
ありがとう、と高瀬に口パクして伝えると、高瀬は優しく微笑む。
本当に助かった。多分俺は馬鹿だから問題解けなかっただろうし…。
それに高瀬が言うんだ。間違っていることなど、絶対にない。
俺は自信満々に、高瀬に教えてもらった答えを言う。
「おしべとめしべです!」
静かな教室には、俺の声が響き渡る。
教師を見てみれば、何故か驚いた表情をしている。
何だよ…?
俺が問題解けたらおかしいのかよ…。
ムッとしていたら、それまで静かだった教室が大爆笑の嵐に包まれた。
「な、中村、…お前馬鹿だろ絶対…っ」
「…お前、最高…、」
「え?…えっ?!な、何…?」
事の状況に上手くついていけない俺。
だって高瀬が解いてくれたはずだから、間違っているわけないし。
それなのにクラスメイトの人達は、声を揃えて、“馬鹿”だの、“最高”だのと言って腹を押さえて笑っている。
「ば、馬鹿者!今は理科ではなく、数学の時間だ!」
すると顔を真っ赤にして先生から怒鳴られてしまった。
「え?…す、数学…?」
そ、そう言われれば先生は数学担当じゃないか…。
何で俺すぐに気が付かなかったのだろうか?
…というか、まさか高瀬は知っててわざと…、
俺は羞恥で赤くなっているだろう頬を隠さず、高瀬を見てみる。
すると高瀬は、俺と目を合わさないまま、肩を震わせている。
様子を見てみれば、声を出していなくて笑っているのが分かる。
だ、騙された…っ。
「…中村、廊下に立ってなさい。」
「……は、はい……」
俺は反抗することも出来ずに、大爆笑をしているクラスメイト達からの視線から逃げるように、俺は教室から出た。
廊下に出ると、未だに笑い声が聞こえてくる。
教師は怖くて、注意することすら出来ないので、暫く俺の笑い話で教室の中は持ち切りだろう。
ひやりとした空気が、俺の恥ずかしさをどんどんと緩和してくれているのが唯一の頼みだ。
「……高瀬の、ばーか…。」
「誰が馬鹿だって…?」
「た、高瀬……?」
廊下には誰も居なかったはずなので、返事が返ってくるとは思っていなかったので、少しびっくりした。
声がした方を見てみると、そこには高瀬が居た。
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