只今理科の宿題中。
残り十分もなかった昼休みでは一枚の宿題も終わるわけもなく、五限目に突入していながらも、俺は一枚でも早く宿題を終わらせるためにシャーペンを動かしている。
…しかしどうしても分からない所が多く、度々手が止まる。
やはり学校を休むと授業についていけなくなってしまう。…その分、高瀬と二人きりで過ごした日々は凄く楽しかったのだが、こうも勉強が分からなくなってしまうと不安だ。
「高瀬お願い、ここ教えてくれないか…?」
「…あぁ。」
高瀬は俺と同じように学校を休んで、しかも俺以上に授業中の話を聞いていないのに、頭がいい。
俺が勉強を教えてくれと頼むと、高瀬は快く受け入れてくれた。
「…これなんだけど…」
何で理科だというのに計算が出てくるんだろう。
食塩の濃度なんて、俺が分かるわけがない。
別に濃度なんてどうでもいいじゃないか、…と投げ出したいものの、現実はそう甘くない。
俺はおずおずと頭のいい高瀬に訊ねる。
「あぁ、…これはな、」
すると高瀬は引き出しに手を突っ込むと、眼鏡を取り出して平然と掛け始めた。
「……っ、…ちょっ…、」
「…どうした?」
ど、どどどどうしたじゃないよ…っ。
…め、眼鏡…?!
え、あ、あれ?高瀬今まで眼鏡なんて掛けてなかったよな…?
「め、…め、眼鏡…、」
「…最近目が悪くなってきた。
……似合わねぇか?」
その真逆です。
似合い過ぎて、ヤバいくらいです。
元々格好いいというのに、こんなアイテムを使われたら、俺高瀬を直視できなくなっちゃうよ。
高瀬のダークブルーの髪の色に合う、黒縁眼鏡。
清潔感漂うというよりも、男の色気が漂ってきて、おもわず魅了されてしまうほど、今の高瀬は格好良過ぎる。
「……おい、」
「……………」
「…仁湖、聞いてるか?」
「あ、…っ、はい、き、聞いてます…っ」
「だから、これはな…」
俺が眼鏡高瀬に夢中になっていた間にも、俺が訊ねた問題の解説をしていてくれたようだ。
…だけど高瀬、ごめん。
その説明内容、全く耳に入ってこない…。
横から見ても高瀬は凄く格好いい。
それに今は眼鏡の所為で、いつもの倍くらい男らしく見える。
俺のために説明をしているのであろう高瀬の横顔を見て、…俺は吸い寄せられるように高瀬の頬に唇を寄せた。
「…………っ、」
すると高瀬は喋るのを止めて、俺が唇を寄せた場所を手の平で覆い、若干赤くなった顔をこちらに向けてきた。
「……………」
「……………」
…や、やってしまった。
無意識の内に身体が動いてしまった。
キスを仕掛けた俺も、キスをされた高瀬も、お互い何も言葉を発することが出来ず、ただ見つめ合ったまま、頬を赤くすることしか出来なかった。
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