「久しぶりだー」
「…あぁ。」
元々野生児で健康的な高瀬。
熱が高かったのはあの一日だけで、次の日には平熱に戻り元気になっていた。
…念のため次の日もベッドに寝かし付け、今に至る。
昼休みが終わる直前くらいに仲良く教室に入った俺と高瀬を見て、がやがやと煩かったクラスメイト達は一瞬にして静かになった。
…あまり歓迎されていないことは知っていたが、こうもあからさまな態度を取られてしまうと、少し傷付く。
「…な、なんか気まずいな…」
「歓迎されていない、というより…、俺達の仲に疑問を持ってるんじゃねぇか?」
「………え?」
“俺達の仲”?
朝は二人で仲良く早く来て、喋っている。
隣同士の席。
昼休みも一緒。
放課後も一緒。
ましてやここ暫く、二人揃って欠席。
しかも今日は二人揃って遅刻での登校。
「………っ、」
確かに思い返せば、“普通の親友”の枠を超えた行動を平然にしていた。別に隠すつもりも、否定するつもりもないのだが、他の人達に俺と高瀬が、“こういう関係”だと思われていたことが凄く恥ずかしい。
頬が段々と熱くなってきたのが分かる。
クラスメイトの視線を浴びながら、俺はそそくさと自分の席に座った。
…チラリと隣の高瀬を見てみると、頬を真っ赤に染めて羞恥に陥っている俺とは違って、何処か嬉しそうに口角を上げていた。
「……高瀬?」
「あ、…いや、何でもねぇよ。」
「…でも、何か嬉しそうだけど…」
「まぁ、いい牽制になってると思ってな。」
「……牽制?」
「独り言だ、気にするな。」
上手くはぐらかされてしまったのだが、優しく頭を撫でてもらえたから、俺はそれ以上訊くのを止めた。
何となく机の引き出しに手を突っ込むと、大量のプリントがあるのに気付いた。
プリントの一枚一枚を見てみると、授業中に使われたのだろう説明文付きの問題プリントと、恐らく宿題が数枚あった。
「…うわ、何かたくさん宿題が入ってる……」
不良高なので、まともに宿題をする人なんて居ない。
だけどもこうして教師達が定期的に宿題を出すというのは、“留年しそうな人は、今の内に平常点を稼いどけ”との理由があるのだ。
…俺はテストの点数があまり芳しくないので、ほとんどの宿題は出している。
「今の内にしとこうかな…」
高瀬はどうするんだろうと思い、隣を見てみれば、目を細めて優しい眼差しで俺を見ていた。
「………、」
…高瀬って前からこうだよな。
俺の勘違いではなければ付き合う前から、こうして俺の事をずっと見ているような気がする。
まぁ、前から比べるとだいぶ視線は優しいものだけど…。
「…な、何?」
「……可愛いと思って」
「お、俺なんか見るの楽しいのか…?」
「凄く」
「…そ、そっか。」
まるで愛おしい者を見るような優しい目付きでそう言われれば、それ以上何も言う事が出来ない。
俺は恥ずかしいものの、高瀬の熱視線を浴びながら宿題に取り掛かった。
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