「…仁湖、行くな…、」
「……高瀬…?」
「ここに居ろ。」
「で、でも…、」
いつになく弱りきった高瀬の台詞や様子。
少し乱れた呼吸に、熱っぽい口調。
…素直に「うん。」と答えたい所なのだが、そうも言ってられない。
熱の所為で汗を掻いてしまっているから、タオルで身体を拭いてあげないと、身体を冷やしてしまう。
「高瀬、すぐに戻ってくるから…」
「…駄目だ。」
「……高瀬…」
「俺から離れないでくれ…」
「………っ、」
しかし高瀬にそう言われたら、行けない。
…むしろ俺から離れたくないくらいだ。
「わ、分かったよ。」
「……仁湖、」
俺の肯定の言葉を聞くと、高瀬は安心しきった表情をして、掴んでいた俺の腕を放す。
「…じゃぁ、何かして欲しいことあるか?」
部屋から出て行くことをせず、高瀬の傍で何か出来ることなんて、そうそうないだろうが、そう言わずにはいられない。
目の前で高瀬が苦しそうにしているというのに、ジッと隣に居るだけなんて、俺には無理だ。
「……手……」
「…手?」
「…手、握って。」
そんな安上がりなことでいいのだろうか、と思いながらも、俺は高瀬に言われた通り、手を握る。
やはりいつもより高瀬の手は熱かった。
「……仁湖の手、冷たい。」
「俺が冷たいんじゃなくて、高瀬が熱いんだよ。」
「…それに、柔らかくて…気持ちいい。」
「ましゅまろみたいに?」
「……そうだな。ましゅまろみてぇだ。」
熱に侵されているからといって、意識まで朦朧としているわけではないらしい。
俺の質問にも、きっちり受け答えしているし…。
「…可愛い…、」
「俺からしてみたら、高瀬のような手が羨ましい。」
「俺の…?」
「男らしい。」
そう言って、高瀬の手の甲に唇を落とす。
そうすれば、高瀬の手がピクリと動いた。
「……唇にキスしたいが、駄目だな…。」
「何で駄目なの?」
「風邪だったら、仁湖にうつっちまうだろ?」
「…馬鹿だな高瀬。」
「………?」
「風邪はうつすのが一番治りが早いって言うだろ?」
本当に人にうつすのがいいのかは、俺も知らない。
…だけど、高瀬とキスしたい。
「風邪をうつす」という口実を作ってでも、高瀬とキスがしたいんだ。
「…でも、駄目だ。」
「……何で?」
「…何ででも。」
「高瀬は、…俺とキスしたくないんだ?」
「違う。」
「…違うなら、何で嫌なんだよ?」
自惚れているわけではないが、まさか断られるとは思っていなかった。
…だって高瀬はキス魔だし、会えば必ずしも最低三回はキスしてくる男だ。
「…何で嫌なの?」
「……キスすると、
止まらなくなるだろ…」
いつもより熱っぽい目線に吐息。
…それだけでも十分男の色気があるというのに、そんなことまで言われたら堪らない。
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