「…仁湖…、」
「な、何…?」
「我慢出来ねぇかも……」
「……ぁ…っ」
熱を含んだ声で耳元で囁かれ、そのまま耳たぶをカプッと噛まれる。軽く噛まれただけだったので、全く痛みは感じなかったのだが、痛み以外の感覚を捉えてしまい、おもわず上ずった声を出してしまった。
「我慢、出来ない?」
「…あぁ。」
「……えっち、…するの?」
「嫌か…?」
「い、嫌じゃないけど……、」
嫌ではないけれど、心の準備がまだ出来ていない。
確かに“キスだけじゃ足りない”と告げたけれど、いざギラギラした雄の目を向けられると、怖くて決心が鈍る。
「…あのさ…、」
「ん?」
「その、…高瀬が嫌じゃなければの話だけど、」
「……?」
「だから、…えっと、」
「何だよ?」
「……く、…口でしてあげようか……?」
何てことを口走ってしまったのだろうか…。
俺は自分の赤くなった顔を隠すため、そして俺が告げた言葉を聞いた高瀬の反応を見るのが怖くて、両腕で顔を覆う。
「……………」
「……………」
「……………」
「………………っ」
な、何とか言えよ、この野郎…っ。
これは俗に言う“羞恥プレイ”というものだろうか。高瀬の様子が気になるのだが、見るのは怖い。自分から言葉を発するのも怖い。
俺はどうすることも出来ず、ただ高瀬が何か言葉を発するまで待つしかないのだ。
「…………」
「……………」
「…………」
だけどいつまで待っても高瀬はピクリとも動かないし、何も言葉を発しない。隙間から高瀬の様子を覗き見ようとした瞬間、高瀬が言葉を発した。
「……だ、駄目だ。」
「……へ?」
「仁湖に、そんなことさせられねぇよ……っ」
意を決した申し出を断られてしまい、俺はソロ…っと腕を下ろす。そして高瀬の姿が瞳に映り、俺は次の瞬間あまりの光景に驚くこととなった。
「そ、そんな…、俺に気を遣わなくていいよ、………って、うわ…っ?!…た、高瀬、よ、涎、出てる…っ」
よく高瀬は鼻血を出すのだが、まさか涎を垂らしているとは思わなくて、俺は驚いて飛び起きる。
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