「……っ?!」
まさか俺からこんなことを仕掛けてくるとは思っていなかったのだろう。手が触れ合った瞬間、高瀬の肩がビクリと震えた。
「なぁ、高瀬。」
「……な、何だよ…?」
「高瀬の家に来る前にさ、“エッチなことはしない”って決めただろ?」
「…あ、あぁ。」
「それってさ、…キスは含まれる?」
俺から手の平を重ねただけではなくて、まさか俺からこんなことを言い出すとは思っていなかったのだろう。高瀬は驚いた顔を隠さず、俺の顔を見つめている。
俺だって自分でもびっくりしている。まさか自分にこんな行動力があったとは…。で、でも俺だって高瀬のこと大好きなんだ。たまには俺から誘ってみてもおかしくないよな…?
「含まれるのかな?」
何も言葉を発しない高瀬に、俺はもう一度訊ねる。
そうすると、高瀬は何故だかゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
「…含まれないって、言ったら?」
「……だったら、遠慮なくキスしちゃう。」
「…仁湖……、」
「黙ってて。」
高瀬の声を聞くと、恥ずかしさが倍増するんだ。
俺は高瀬の唇に人差し指を当てて、黙るように言う。
すると高瀬は息を呑んで、そのまま押し黙る。
「……高瀬、好きだよ。大好き。」
高瀬の手の平をギュッと握って、自分の唇を高瀬の唇へと近づける。そして俺に言われた通り何も言葉を発しない、高瀬の少しかさついている唇に自分の唇をくっ付けた。
「…………、」
「…………」
………時間で言うと、きっと三秒もなかったと思う。
それよりも唇を離した後の、沈黙の方がずっと長い。
俺からキスを仕掛けた後の、沈黙って凄く気まずいけれど、…何て言えば分からない。
高瀬も自分の唇に指を当てたまま何も喋ろうとしない。真っ赤に頬を染めたまま、何処かボーっと見つめているようだ。
「………何か喋ってよ。」
「……………。」
「なぁ、聞いてる?」
「…………、」
「…高瀬?」
「……………なぁ、」
「何?」
「……今、キスしたよな?」
「う、うん。」
「…仁湖から?」
「そうだよ。…嫌だった?」
「………嫌じゃない。嬉しい。すげぇ、幸せ。」
「…俺も、幸せ。」
良かった。俺からキスを仕掛けて嫌だと思われてたら、結構ショックだったから、高瀬にそう言ってもらえて凄く嬉しい。
「……仁湖、」
「ん?何?」
「………例えばの話だ。」
「うん。」
「…キスだけじゃ足りないって言ったら、どうする?」
熱が篭もった高瀬の目を俺は見つめ返す。
「例えばの話?」
「……あぁ、例えばだ。」
「そうだな………俺も例えばの話だけど、俺も一緒でキスだけじゃ足りない、って言うかもしれな………っ、…うわ…っ?!」
“キスだけじゃ足りないと言うかもしれない”と言う前に、ギラギラした目をしたままの高瀬にソファに押し倒されてしまい、最後まで言い切れなかった。
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