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「お邪魔します。」
「飲み物持ってくるから、適当に座っててくれ。」
「…お、お構いなく…」
冷蔵庫があるキッチンへと行く前に、高瀬は俺の髪の毛をクシャッと手の平で撫でる。
去り行き際まで格好いい高瀬に、俺の心臓は物凄い速さで高鳴る。
「…反則だよな、あの格好良さは…」
あの端正な顔立ちに加えて、高瀬は物凄く優しい。
頭も良くて、身長も高くて、喧嘩も強くて……、まぁ高瀬の良い所を挙げるときりがないな。
神様は高瀬に二物どころか、何物与えたのだろうか…。
俺はそんなことを考えながら、ソファの端に腰を下ろした。
「仁湖、これでいいか?」
「…あ、うん。何でもいいよ、ありがとう。」
高瀬のことを考えている間に、高瀬は飲み物を持ってきてくれた。高瀬が俺にくれたのは、林檎ジュース。
そして高瀬が自分が飲むために持ってきたのは、…見るからに水以外であろう透明の飲み物。昼間から何を飲むつもりなんだ、高瀬は…。
「……しかし高瀬も林檎ジュースとか飲むんだな。」
高瀬は学校では水かお茶。
家では焼酎か無糖のコーヒー。
それ以外の物を飲んでいるところなんて見たことなかったから、少し驚いた。
しかも100%ではない林檎ジュースだ。甘い物嫌いだって聞いていたんだけど…。
「高瀬も林檎ジュースなら飲めるんだな。」
「いや、飲めねぇ。」
「え?なら何で持ってるんだ……?」
「……仁湖がいつ来てもいいように、前々から買ってた…。」
高瀬はぶっきらぼうにそう呟くと、照れ隠しなのか、手に持っている焼酎を一気に飲み干す。
「……お、俺のため?」
「…あぁ。」
「わざわざ?」
「……っ、何回も言わせんな…、恥ずいだろうが…っ、」
そう言う高瀬の頬は、本当に真っ赤に染まっている。
先程一気に飲んだ焼酎の所為かと思ったのだが、高瀬は酒には強いし、例え酔ったとしても、顔には出ないタイプだ。
…つまり高瀬は本当に照れているのだ。
「ありがとう、高瀬。凄く嬉しい。」
「…たかが飲み物だろ…。」
「ううん。“たかが”じゃないよ。そういう高瀬の気遣いが本当に嬉しいんだ。」
隣に座っている高瀬は、一向に俺の方を向いてくれない。だけど俺は分かってる。高瀬がこうして頬を赤く染めて俺の方を見ないということは、怒っているわけではなくて、照れているのだと。
高瀬が今こちらを見ていないのをいいことに、俺は足を組んで座ったまま、ソファに手を付いている高瀬の手の甲に、そっと自分の手の平を重ねた。
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