2








俺が高瀬を連れ出した場所は、誰の邪魔も入らないであろう、音楽室。
空き教室は弁当食っている人が居るだろうし、トイレは不特定多数の人が入ってくるだろうし、ましてや屋上なんて不良の溜まり場だ。

なので最上階の一番奥にある音楽室は一番最適なのだ。だれも好き好んで近づこうとしないからな。




「…えっと、本当にごめん高瀬…」


「何で仁湖が謝るんだ…?」


「だって、今日はずっと高瀬のこと無視しちゃったし、…それに約束破っちゃたし…。」


高瀬は男同士のやり方を、俺に教えるのを戸惑っていた。それなのに俺が強引に訊いたんだ。
「嫌悪感を持たない」、「高瀬から逃げない」って約束したのに。俺はいとも簡単に、高瀬との約束を破ってしまった。
本当に最低な奴だ、俺は…。



「…最初から仁湖に怒ってなんかいねぇよ。だから仁湖が謝るな。」


「嘘だ…、怒ってただろ?」


「……?」


「だってほら、…隣の人の椅子蹴って、舌打ちしてたし…。」


「…あれは自分に腹が立っていたんだ。」


「自分に?」



俺にむかついてあんなことしたんじゃなかったのかよ?久しぶりに高瀬の舌打ちと、椅子を蹴る姿を見て、ちょっと怖かった。



「…欲に負けちまったから…、」


「え?」


「仁湖にもっと触れたいからって、先走り過ぎた自分が腹立たしいんだよ…。」


「……なっ…?!」


「…訊いて後悔しただろ?」



不安そうに訊ねてくる高瀬に、俺は首を横に振った。



「後悔は、してないよ。」


「………本当か?」


「うん。…は、恥ずかしくて、高瀬から逃げてしまったけど、訊いて後悔はしてないと思う。」



確かに高瀬の口から真実を告げられて困惑はしたけれども、後悔はしていない。
ただ恥ずかしくて高瀬から逃げたり、避けたりをしていたけれど、嫌ではなかった。




「…高瀬はさ、」


「……ん?」


「俺に優しすぎだと、思う、…よ?」



高瀬は俺に気を使い過ぎだし、優し過ぎるんだ。
だから抱え込まなくていいことを、一人でたくさん抱え込んでいる。



「俺は、まだまだ足りねぇくらいだ。」


「十分過ぎるよ。」



相変わらず優しい表情を浮かべながら俺を見つめてくれる高瀬に、俺は何だか恥ずかしくなってきて、顔が熱くなってきたのが自分でも分かる。



「…でも仁湖、」



「そ、れにさ…、


…たまには、俺のこと叱ってくれたっていいんだよ…?」



高瀬の言葉を最後まで聞く前に、俺は思っていることを素直に話した。恥ずかしくて最後は早口になってしまったけれど、高瀬にはちゃんと伝わったはずだ。

…この際だ。言いたいことや伝えたいことは、今の内に言っておくのがいいだろう。
俺はもう高瀬に伝えたかったことは全て告げたはずだ。



「高瀬は俺に何か伝えたいことある、……って、ちょ…っ?!」



黙り込んだまま俯いている高瀬の顔を覗き込んでみると、



……そこには、




「は、…鼻血、…鼻血出てるって…!」



鼻血を流しながら、顔を真っ赤に染め上げている高瀬が居た。



174/300
<< bkm >>
MAIN TOP
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -