「…ちょっ、…高瀬…っ」
「…駄目か?」
「だ、駄目じゃないけど…っ」
「ならいいだろ。…ほら、こっち向けって…。」
「………ん…っ」
高瀬と付き合うようになってから、二週間経った。
まさかとっくに両思いだったことを知らなかった俺にとっては、高瀬と付き合えたことは今でも夢のようだ。
きっと俺にとっては、ちゃんとした初恋は今だと思う。男の子とも女の子とも付き合ったことがない俺は、恋愛初心者…。
だから時々どういう風に対応すればいいのか分からなくなる。
……例えば今とか…。
「…ンっ、…たか…、せ」
「…苦しいか?」
「ん、…っ、くる…しっ」
高瀬と付き合うようになってから、数え切れないほどキスをしたことだろう。最初は高瀬も遠慮がちに唇を重ねてくるだけだったのだが、…今では強引に舌まで入れ込んでくる。
…そりゃ二週間も付き合っていれば、そういうキスもし出すかもしれないけれど…、
俺は上手く息が出来なくて苦しいし、それに恥ずかしいから、あまり好きじゃない…。
きっと色々な女の人にモテていたであろう高瀬は熟練者だ。それと比べて、…俺は女の子ともまともに手を繋いだことすらない。
『舌を出して…。』とか、
『息を止めるな。』とか、
そんな風に言われても、出来ないものは出来ない。
舌を強引に絡め取られれば、息の仕方が分からない。そうすれば呼吸が出来なくなって、苦しくなるわけで…。
俺は鼻から息をするとか、そういう高度な技術が出来ない。だから毎回毎回、苦しくなる度に高瀬の胸板を、上手く力の入らない手でドンドンと叩く。
「…相変わらず可愛いな、仁湖は…。」
「か、可愛くなんかない…っ」
毎回胸板を叩いてキスを中断させる俺に、高瀬は怒ることなく、むしろ「可愛い」と言って、チュッと目元にキスを落としてくれる。
「仁湖は可愛い。…そうやってすぐ顔を赤くする所とか、何回もしてるのにキスに慣れないところとか、…全部含めて可愛い。」
「…ば、…馬鹿じゃないの…っ」
俺が可愛いなんてありえない。…ありえないけれど、高瀬にそう言われれば、嫌な気はしない。
むしろ好きな人にそう言われれば、嬉しいに決まっている。
…だけど不器用で恋愛初心者な俺は、こういうときにどういう対応をすればいいのかが分からない。
正解なんてないのかもしれないけど、こういうときは普通、「ありがとう。」とか言うべきなのだろうか…?
でも俺は男だ。男が男から「可愛い。」と言われて、素直に喜んでいいものだろうか?
…全く、恋愛というものは難しいものだ。
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