重なる手の平








「…高瀬?」

俺は慌てる。
まさかこの場面で、高瀬が手を繋いでくるとは思わなかったから…。
高瀬と触れ合えて嬉しいくせに、言葉では「離して」と言う俺は、本当に意気地なしかもしれない。



「…あ、あの…」

「……少しだけ、…いいだろ?」

「う、うん…っ。」

俺がそんな申し出を断るわけがなく、肯定の意味で頷いた。
すると高瀬は俺の返事に気を良くしてくれたのか、更にギュッと握ってきた。



「…相変わらず、ましゅまろみてぇな手だな…。」

「な、何だよ、それ…っ。」

ふっ…と笑って俺の手をフニフニと握ってくる高瀬に、俺は恥ずかしくて思わず俯いてしまう。
…昔は高瀬から「ましゅまろみたない手」だと言われたら、怒っていた。
俺だって男なんだ。自尊心が傷ついていたのだが、…今ではどうだ。
高瀬にそう言ってもらえて何処か嬉しいと思っている自分が居る。

手が柔らかいお陰で、こうして高瀬と触れ合えるんだ。男としては情けないことだが、高瀬に恋をしている俺にとっては幸せ過ぎる話。



「…怒らねぇのか?」

「………え?」

「昔は怒ってただろ?…俺がましゅまろみてぇって言うと…。」

「……あー…、」

やはり高瀬も俺の変わりように気付いているようだ。
…まぁ、確かにあんな風に怒っていたのに、今では大人しくしていると変に思うだろうな。


「何で?」

「…へ?」

「……何で、今は怒らねぇのか…?」

「えっと、……それは…、」




“高瀬が好きだから。”



答は簡単だ。とっくに自分の中では答が出ている。
だけど、…それを口にする勇気がなく…、



「…何でなんだ…?」

「だ、だから…それは、」

「……それは…?」

「…だから、…た、高瀬のことが…、」


そこで言葉を切って、ゴクリと唾を飲み込む。
俺と高瀬しか居ない教室では、そんな唾を飲み込む音でさえ響き渡る。
こんなところで唾を飲み込む行動を取って、高瀬に変な風に思われたかもしれない…、と思う暇すら今の俺にはない。

ど、…どうしよう。


言えよ。俺。
好きだって、…高瀬のことが好きだって、ここで言わなくていつ言うんだよ…っ。



「…高瀬のことが…、」


「……俺のことが?」


「だ、…だからね、…その、」


あぁ…、駄目だ。
後一歩のところで高瀬に嫌われてしまうかもしれないと思って、言えなくなってしまう。


…何て馬鹿なんだ俺は。
高瀬のことこんなに好きなのに…。
折角のチャンスに上手く言葉が出なくなるなんて…。情けない。

このチャンスを逃したらきっと一生言えない気がする。…だけど本当に何でだろう?


“高瀬のことが好きだから”


…って、


言葉が出てこない。





俺は何て小心者で臆病者なんだろう…。
一歩を踏み出すことすら出来ないまま、…この恋は終わってしまうのかな…?



そう思うと凄く悲しくて、


俯いていた俺の目元には涙が段々溜ってきて、


ついには、ポトリと机に涙が落ちた…。







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