不器用な彼。








「……………。」

「……………。」

「……………。」

「………。」


高瀬がトイレから帰ってきて、早十分…。
物凄く気まずい状態が続いています…。



高瀬がトイレに入ってすぐに俺は自分の部屋へと戻った。高瀬の近くに居ることが妙に気まずくて、恥ずかしかったから…。好きな人が同じ家に居るというのに、俺は何で自慰行為なんてしたんだろう?
過去を変えれるなら変えたい。
そうすればきっと高瀬に不審に思われることはなかっただろうし、こうして悩むことはなかったはずだ。

そして高瀬は30分ほどして、俺の部屋に戻ってきた。
俺は開いた扉の方へと反射的に視線を向ける。そうすれば必然的に高瀬を見ることとなる。高瀬もベッドに座っている俺を見る。
…そうすれば視線がぶつかり合う。

だが高瀬はすぐに俺から視線を逸らした。
逸らされたことは凄くショックなのだが、それよりも妙に落ち着きがない高瀬の行動が気になってしまう。




……そして冒頭に戻る。




高瀬がこの部屋に戻ってきてから軽く十分は過ぎた。
だが俺も高瀬も、どちらも言葉を発しない。


「…………。」

「…………。」


何を話せばいいのか分からない。
きっと九割近くの割合で、高瀬は俺が自慰行為をしながら高瀬の名前を呼んでいたことに気付いているはずだ。
そんな俺に高瀬は不信感を抱いているはず。…それなのに自分から図々しく話掛けることなんて出来るはずがない。

きっと高瀬も気まずいのだろう。
…自分の名前を呼びながら、自慰行為に没頭していた俺に何を話せばいいのか分からないはずだ。


いっそ高瀬から「俺の名前呼んでいたよな?」なんて、直球に聞かれたほうがまだマシなのかもしれない。


………そうすればきっかけが出来て、告白できるかもしれないし…。






「……………おい、」


「う、わっ、…えっ?な、何…?!」

思いにふけているときに話掛けられたものだから、驚いてしまい変な声が出てしまった。


「…寝るか。」

「……へ?」

おもわず素っ頓狂な声が出てしまった。
……だけど、今のは仕方ないだろ…。
いきなり何だ?「寝るか。」?
何でいきなり…っ。


「おら、来い。」

「うわ…っ?!」

戸惑っている俺を、無理矢理ベッドに引きずり上げる高瀬。


「寝てねぇんだろ?…ほら、こっち来い。」

「う、…うん。」


……短い期間だけど、その分密着して高瀬の側に居た俺は分かった。
高瀬がこうして無理矢理俺を寝かそうとしている理由を。
気まずい雰囲気を掃うため。寝ていない俺を寝かせるため。一見強引な行動だけど、俺のためを考えてくれているのだ。
相変わらず高瀬は優しすぎる。


まぁ、結論から言えば…、


高瀬は“不器用”なんだよな。







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