漏れる声








高瀬が何やらぶつぶつ呟いている間にトイレに行った俺。
下品な話だが、俺は自分でするのが得意じゃない。だから滅多にこういうこともしない。
だって何か凄く恥ずかしいし、変な声が出てしまうから嫌だ。


「……ン…っ」

下唇をギュッと噛んで、奥歯も噛み締める。
だがどんなに努力しても、鼻に掛かったような変な声が出てしまい、どうしようもない羞恥に陥る。
親が居ないのはいい。
だが上の階には高瀬が居る。…俺の部屋まで聞こえることはないと思うが、やはり好きな人が近くに居るのに、変な声を出してしまうのは凄く恥ずかしい。


「…ふ…っ、ン…」

そして俺がこの行為が苦手なのは、変な声が出てしまうだけではない。
……“何を考えて”すればいいのか分からなくなるからだ。普通は女の人の裸を想像したりとか、エッチなDVD見ながらとかかもしれないが、…生憎俺は女の人の裸を見れるほどの勇気がない。
だからいつもはただ頭の中真っ白。何も考えないし、何も考えようともしない。


「…っ、ひ…ぅ、ぁ」

………だけど今は違う。
手で扱いて快楽を味わっていると、何故か先程の高瀬との行為が頭の中を占領する。
考えたくないのに、勝手に頭が思い出してしまう。忘れようとすればするほど、頭の中は高瀬のことでいっぱいでどうしようもない。


「ン、…は…ァ」

高瀬の匂いに、高瀬の温度。
舌の使い方に、俺のものを押し潰してくる膝の感触。
そして俺を見下ろしてくる目付きに、息遣い。

……どれもこれも忘れられなくて、俺は欲望に素直に従い、高瀬の名前を虚ろに呼びながら手を動かす。

「た、…かせ、ン…ふぁ」

声を出しては駄目だと分かっているけど、どうしようもない。

「ひ…ン、高瀬、ンく…」

高瀬のことだけを考えながら、俺は行為に没頭する。
快楽に夢中になった今では、恥ずかしいだなんて感情は一切ない。ただもっと気持ちよくなりたくて、高瀬の名前を呼びながら、手を動かす。


…グチャグチャといやらしい音が狭い室内に響き渡る。



「ふ、…ン、…出る…っ」

一際手を速く動かして、絶頂に昇る。
ブルリと全身を震わせながら、俺は手の平に精を放った。


「……ん、…はぁ…」

射精したときのこの疲労感も俺は嫌いだ。
マラソンを最初から最後まで全力で走りきったような疲労感。俺は息をハァハァと荒くしながら、息を整える。

高瀬のことを考えてしちゃったことを反省しつつ、身なりも整えていく。

…というか、どういう顔して高瀬の元に帰ればいいんだろう?
きっと鋭い高瀬のことだ。俺がトイレに駆け込んだことで、“こういう行為”をしていることはきっと気付いているはずだ。


……恥ずかしくて、高瀬に顔見せ出来ないよ。


「…うわぁ、はず…っ」

俺は自分で分かるほど、顔を真っ赤に染めて、ガチャリとトイレの扉を開ける。







…………と、そこには…、




今一番会いづらいなぁー…と思っていた、





高瀬が居た…。






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