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「…た、高瀬……?」

ギリギリという音が聞こえてきそうなほど、強く両肩を掴まれている。
両肩をベッドに押さえつけられているから、この状態から逃げ出したくても逃げ出せない。


「高瀬、…離してよ…っ。」

前に高瀬の家にお邪魔したときのように、いつもと違うギラギラした獣の目で見下ろされ、思わず身体がブルリと震えてしまう。その震えが恐怖からなのか、何なのかは分からないのだが、本能が「逃げろ!」と全身に警報を鳴らしている。

「ど、退けって…っ」

俺の上に跨ったまま何も喋らず、ただ俺の焦る表情を見下ろす高瀬に、強気に何度も「退け!」と訴えるのだが…、



「もう逃がさねぇ。

……鈍い仁湖が悪いんだ。絶対逃がしてなんかやらない。」


……と、少し狂気染みた一言によって、あっさりと断られてしまった。
俺を見下ろしてくる目付きと、今の高瀬の言葉に、背中にじっとりと嫌な汗を掻く。


「…た、高瀬、…冗談は止めっ…、痛ッ…?!」

冗談は止めろ。と言おうとしたのが、言い切る前に高瀬に首筋を噛まれて、痛みで最後まで言えなかった。

ガリっと皮膚を噛まれた後、まるで血を吸う吸血鬼のように、高瀬は噛んだ場所を吸う。噛まれた痛みに眉を顰めると、高瀬は労わるかのように、ペロっとぬめった舌で舐めてくれた。

「ひ……ぅ…っ。」

痛みと恐怖で涙が目元に溜まる。
俺は高瀬の意図が分からなくて、「何でこんなことをするの?」という目線を送る。


「…“冗談”なんかで、こんなことはしねぇし、わざわざ夜中に家に来ねぇよ。」


…どうやら高瀬は俺の“冗談は止めろ”という発言に怒ったらしい。
で、でも冗談ではないのなら、一体この状態は何…っ?



夜中に二人きり。
そしてベッドの上。
俺は押し倒されていて、
高瀬は俺を押し倒している。


この状態が冗談ではないとしたら一体何…?



考えていると、俺の肩を掴んでいた高瀬の片手が離れ、俺の頭の方へと近づいてくる。
俺は叩かれるのかと思い、反射的に目を閉じる。


……しかし、痛みは一向に訪れず…、


その代わり、頭を撫でられる優しい感覚が訪れた。




「……………?」

「…んなに、ビクつくな。痛くはしねぇから。」

高瀬はギラギラした目付きのまま、身構える俺を見て「力抜け。」と、俺を宥めるように優しく言うと、ギュッと抱き締めてくれた。


「………っ、…ちょ、…た、高瀬…っ?!」


「身構えられると、苛めたくなるって…、前に言っただろ?」


た、確かに高瀬はそういう類のことを前にチョコチョコ言っていたような気がする…。
しかしこの状態は本当に何なんだ…?

何で俺は高瀬に頭を撫でられながら、抱き締められているんだ?




こ、…こんなの、




…恋人同士みたいじゃんか…っ。






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