…一体何分この状態のままだろうか…?
来てくれたのが高瀬だと分かって、嬉しさのあまり勢いで抱きついた俺。
そしてそんな俺を払いのけることもせず、ただ優しく抱き返してくれて、頭を撫でてくれる高瀬。
凄く嬉しいけど、…平然さを取り戻した今の俺には羞恥以外の何物でもない。
俺は真っ赤になった顔を高瀬に気付かれないように、高瀬の硬い胸板に顔を埋めた。
「…た、高瀬、そ…の、ごめんな…っ。」
「何がだ?」
「だからその、…起こしてしまったこととか、居留守使ったこととか、……その、今の状態とか、…あの、えっと、色々とごめん。」
顔を上げるのが恥ずかしくて、高瀬の胸板に顔を埋めたまま謝り続ける俺に、高瀬は優しく「怒ってない。」と言ってくれた。
俺はその言葉に安堵の溜息を吐く。
「…でもさ、この部屋に来たとき怒ってたよな?」
「あぁ、…でもお陰でいいことが聞けたし、この状態も嬉しいから、今は怒ってない。」
「……“いいこと”?」
“この状態”ってのは分かる。
…というか、今サラリと高瀬“嬉しい”って言った?
…あれ?今のは俺の聞き間違いだよな?
「“高瀬でよかった。俺、ずっと会いたかった。”」
「……なっ…?!」
何十分か前に勢いで本音をポロリと発言してしまったときの俺の言葉だ。
ばっちりと高瀬に覚えられていたことが恥ずかしくて、俺は真っ赤になった顔をバッと勢いよく上げる。
「随分情熱的な言葉だったな。」
高瀬は真っ赤になった俺の頬に手を添えて、嬉しそうに頬の筋肉を緩めて笑う。
“この高瀬の笑顔貴重だ”と感動するより、俺は恥ずかしくて高瀬と目が合わせられなくなった。
「わ、忘れろよ。そんな言葉。」
「無理だ。…仁湖にそう言って貰えて凄く嬉しかった。」
「ば、…馬鹿…っ。」
本当に嬉しそうに微笑む高瀬に、俺は「早く忘れろ!」と、そんな言葉を浴びせられなくて、ただ赤くなった顔を隠したくて俯いた。
…………と、そこで俺はある疑問を持った。
「あれ?…そういえば高瀬ってどうやって家の中に入ったんだ?」
俺は間違いなく鍵を閉めた。
玄関だけではなく窓もだ。
…俺が内側から鍵を開けない限り、高瀬は家の中に入れないはずだ。
それなのに何故、高瀬は家の中に入れたんだ?
「………………あー…」
「え?何?」
俺が訊ねると高瀬は言いにくいのか、眉を顰める。
「…ほら、あれだ。家の前に置いてある、右から二番目の植木鉢の下に鍵があった。」
「………へ?」
ちょ…、お母さーーーん!!!!
ぶ、無用心すぎるよッ。なんて分かり易いところに鍵を置いているんだ!!
念のために置いているのかもしれないけど、めちゃくちゃ危ないよ!!
「そ、そうなんだ。」
「………あぁ。」
「あはは、…俺はてっきり、知らないうちに合鍵でも作られたのかと思ってた。…ははは、なんちゃって…。」
「…………………。」
え?
あれ?
冗談のつもりで言ったんだけど、……あれ?
な、何?実は植木鉢の下にあったとかじゃなくて、本当に俺が知らないところで合鍵を作っていたとか?
…いやまさかそんなわけあるはずがないよな。
そんな犯罪染みたこと高瀬がするわけない…、
……っていうか、あれ?
家の前に、
植木鉢なんてあったか…?
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