寝間着に着替えて、歯を磨き終えた俺は目覚ましを6時にセットする。そして枕元には携帯電話を置いて、携帯でも6時にセットする。
「…明日金曜日か…。」
帰宅部の俺にとっては、比較的楽な曜日だ。
次の日は休みだし、何より嫌いな数学の授業がない。
俺にとってはさいこうの曜日。
……だけど、高瀬に二日間会えないと思うと寂しく感じる。
明日は思う存分会えるのだが、土曜日や日曜時のことを考えると少し憂鬱。
「あんまりベタベタし過ぎても、ウザいと思われるよな…。」
今から悩んだって仕様がない。
会えないものは会えないのだから、二日間くらい我慢しよう。
土曜日と日曜日に会えない分、明日はたくさん高瀬と話したいな。
……俺はそんなことを思いながら眠りについた。
_______
夢を見ているのか、それとも現実なのか。
…もしくは夢と現実の狭間なのか…。
よく分からないが、声が聞こえてきた。
『……その一万円が……、な…から』
……何?
よく聞こえない。
誰の声?
何て言っているんだ…?
『…その一万円がなくなったら、
……お前に………から』
…この声は高瀬…?
あれ?この台詞何処かで聞いたことあるような…?
何時だったかな…?
この台詞は確か…、
俺が高瀬の家に泊まったとき?
そういえば高瀬は何か言ってたような…。そのときは眠たくてよく聞こえなかったけど、…あれは何て言ってたんだ?
『…その一万円がなくなったら、
……お前に伝えるから。』
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「……は…っ…」
俺は寝ていた身体を勢いよくガバッと起こす。
額だけではなく、背中には冷や汗が流れている。
………何だ、今の…?
“一万円がなくなったら、お前に伝える”?
……何で今になって高瀬の言った言葉を思い出すのだろうか…?眠っていた記憶が蘇ったのか…。
俺はあの時高瀬が俺に向かって放った言葉に、身体が冷たくなるのを感じた。
高瀬から預かったあの一万円がなくなったら高瀬は俺に何を言うのだろうか…?
“もう俺はいらない”?
それとも、
“新しいパシリが出来た”?
それとも、
“お前なんか嫌いだ”?
………考えれば考えるほど、マイナスの方向に考えてしまう。
…高瀬は俺に何を伝えるつもりなんだ…?
俺はもういらないって言われるのだろうか…?
悪いほうに考えれば考えるほど深みにハマっていく。
高瀬はそんな酷いことを言う人じゃないって分かっているけど、…………想像通り俺は高瀬にとっていらない存在じゃないか、って思えてくる。
苦しい。嫌だ。高瀬と離れたくない。嫌われたくない。
………嫌な目覚めをしたのが深夜2時。
俺は不安に駆られ、それから眠れることはなかった…。
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