「…あ、あの…、とりあえず帰ろうか…。」
俺が深く立ち入ったら駄目な悩みなのかもしれない。
高瀬に目を合わせてもらえないのは残念だけど、これは高瀬の問題だ。
……今の俺では力になれないようだ。
もっと高瀬に頼られるようになりたいなぁ…。
俺が帰ろうと手を差し出せば、高瀬は何故か顔を真っ赤にさせて、「…あぁ……」と、どもりながら遠慮がちに俺の手を握ってくれた。
「よし、帰ろうか。」
そして、「今日は俺が高瀬を家まで見送る。」と申し出たのだが、……それは却下されてしまいました。
やっぱり今日も俺を家まで送ってくれるらしい…。
だけど今日は高瀬具合が悪いだろうし、「送らなくていい」と言ったのだが、ギロリと睨まれてしまったので俺はそれ以上何も言えずに、ご好意に甘えさせてもらった。
そして俺たちは相変わらず手を繋いだまま、街中を歩いている。
最初高瀬と手を繋いで人前を歩くことは恥ずかしくて仕様がなかったのだが、…今となってはそんなことを思うことすらなく、ただ高瀬と触れ合えて嬉しいと思っている俺が居る。
「…高瀬の手って男らしいよな…。」
心底羨ましい。
俺は高瀬から、“ましゅまろ”だの“フニフニ”だの“肉球”だの言われたくらい、男としては柔らかいほうだ。
……それと比べて高瀬の手は本当に男らしい。
「いいなぁ…。」
「そうか?…俺はお前の手が好きだ。」
「…あ、ありがとう。」
褒められているのかどうかは定かではないが、高瀬に“好きだ”と言って貰えて正直に嬉しい。
……でもやっぱりこういう高瀬みたいな男らしい手に憧れるわけで…。
「…そういえばさ、手が硬い人ってあっちの方も硬いって言うよな?」
「…………あ゛…?!」
俺がなんとなく言った言葉に高瀬がピシッと固まった。
「ばっ、…に、仁湖、…お前、何を…?!」
「へ…?何が?」
お、俺また変なこと言っちゃった?
…何で高瀬の顔赤くなってるんだ?そして何でどもってるんだ?
「…か、硬い方が好きなのか?」
「え?…あ、うん。そうだな。やっぱり硬くて太いのがいいよなぁ。憧れる。
高瀬も硬そうだよな。ちょっと触ってみてもいい?」
「ばっ…?!な、…触るって、…お、おま…、何言って…?」
「駄目か…?」
「駄目、じゃねぇが……、
触るだけじゃ終わらねぇぜ?」
触りたいと言った俺に、高瀬は焦りを見せた後、平然を取り戻してニヤリと笑った。
「触ってもいいの?」
「……あぁ。なんならしゃぶってもいいぜ?」
「“しゃぶる”?…何言ってんだ?それよりも触ってもいいか?
その逞しい“腕”に。」
……………。
「………………腕?」
「うん。憧れるよなぁ。硬くて太いの。」
俺は高瀬に了承を得る前に、高瀬の腕を触る。
うん、やっぱり硬くて太い。逞しくて羨ましい。
……俺のなんて、何かプニプニしてるんだよなぁ…。高瀬に憧れて毎日腕立て伏せしているというのに…。
高瀬のようには中々ならない。
「……って、どうしたんだ高瀬?」
高瀬は首真っ赤にして、口元を押さえていた。
「…いや、俺もそろそろ限界なんだと思った…。」
「限界?」
「そうか。腕の話か…。末期だな、俺も。」
「………?」
俺は高瀬の言っていることがよく分からず、首を傾げた。
そして次の瞬間には、“録音しとけばよかった。”という高瀬の声が聞こえて、俺は更に首を傾げたのだった。
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