「…高瀬。」
俺は高瀬の名前をボソッと呟く。
しかしそれだけの音量では、眠っている高瀬には俺の声は届かない。高瀬は微動だにせず、気持ちよさそうに寝ている。
「寝顔も格好いいとか、
……何かずるい。」
いつも皆に恐怖感を与えている鋭い眼は閉じられているせいか、起きているときよりも少し可愛く思えるのだが、美形は寝ていても美形のようだ。
「……起きろよ、馬鹿。」
クシャクシャと高瀬の髪を撫でる。
初めて高瀬の髪を撫でたときと同じで、やはり高瀬の髪は全く痛んでいない。
ダークブルーに染められている髪はサラサラだ。
……きっとこんな風に自分から高瀬に触れられるのは、高瀬が寝ているからだろう。
高瀬が起きていたら、こんなこと恥ずかしくて出来ない。
…好きな人だし、こうして触りたくなるのは仕方ないことだろ?
だけどこんな風に起きているときに自分から触ったら、きっと高瀬に変な風に思われる。
……それにもし触って、拒絶されたら凄く嫌だ。
絶対落ち込む。
……だから、
寝ている今くらいは、
「…触ってもいいよね?」
俺は誰かに確かめるわけではなく、自分に言い聞かせるように言葉に出す。
大丈夫。
高瀬は今、寝ている。
だから、もうちょっと。
あとちょっとでいいから、
普段触れない分だけでも、今触らせて…。
「……高瀬」
俺は高瀬の寝ているベッドの端に腰を下ろし、高瀬が起きないように、最善の注意を払って髪の毛を撫で続ける。
…好きだ。
どうしようもないくらい好き。
高瀬が好き。
こんな風に誰かのことを思ったのは初めてだ。
高瀬と出会えて、俺は色々な“初めて”を体験した。
机を瞬間接着剤で引っ付けられたり、
友達の教科書を窓から投げられたり、
不良からおもいっきり殴られたり、
ほっぺたや目元を舐められたり、
首や耳たぶを噛まれたり、
………抱き合ったまま同じベッドで眠ったことも、
……そして“恋”とは胸が締め付けられるような思いをすることも初めて知った。
全部高瀬が初めてだ。
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