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「…し、失礼します…。」
朝一から鼻血をボタボタ零していた高瀬。
その鼻血は5分経っても、10分経っても、20分経っても、止まることがなかった。
たかが鼻血のように思えるけど、凄い勢いのまま止まらない高瀬の出血に俺は怖くなって、泣きそうになってしまった。
……それほど凄かったのだ。
あれから高瀬は保健室に運ばれた。
いつ鼻血が止まったのかは詳しく知らないけど、俺が一限目終わった後に保健室へと高瀬の様子を見に行くと、既に止まっていた。
高瀬いわく、「仁湖が居なくなって落ち着いた。」…とのことらしい…。
どうやら事の根源は俺の所為らしい。理由は良く分からないのだが、
…噂はあながち間違ってはいなかった…。
最初は、“あの高瀬葵に鼻血を流させた平凡男”という噂だったものの、今では…“高瀬葵を殴った凶暴平凡男”という噂になっている。
噂というのは、正確な知識や情報を得られず、明確な根拠も無いままに広まってしまうものだ…。
…仕方ないのだろうが、廊下を歩く俺を避けるようなことはしないで欲しい…。
本当にショック受けるから…。
「……あれ?先生居ないのかな?」
一限目が終わったときも、二限目が終わったときも、三限目が終わったときも、保健の先生は居たというのに…。
何か用事があるのだろうか…?
今の時間はお昼だ。
もしかしたら何処かに食べに行ったのかもしれない…。
………それより高瀬はちゃんと安静に眠っているのだろうか?
「……高瀬、開けるよ。」
隣同士にあるベッドを仕切るためのカーテン。
俺はそれを静かにシャッと開ける。
「…あれ?寝てる。」
白い掛け布団を腹にまで掛けて、備えてあった枕を使わず、自分の腕を枕にして横向きの体勢で寝ている。
「ご飯、冷めちゃうな…」
今日は生姜焼き定食。
少し豪勢にいつもよりほんのちょっとだけ高い定食を買った。
高瀬から貰った一万円は、あっという間に少なくなって1580円……。
高瀬から最初一万円を貰ったときは、このお金を早くなくそうと努力していた。
……だけど、今はその逆だ。
段々と少なくなっていくお金に俺は戸惑っている。
お金が少なくなっていく内に、俺はこう思うようになっていた。
“高瀬との関わりが減っていく”
このお金がなくなってしまえば、俺は用済みなんじゃないだろうか、……って。
高瀬は今度は俺と違う人をパシリに選んで、仲良くするんじゃないか、……って。
最近はそう思えてしまって、仕方がない。
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