…俺は個室トイレの中で、こっそりと封筒の中を見た。
そこには一枚の便箋。
書かれていた内容はこうだ。
『中村仁湖君。
いきなりのお手紙、ごめんなさい。
もしよければ、放課後に体育館裏に来てくれると嬉しいです。
』
たった三行の文章。
……少し丸っこくて綺麗な文字。
どう見ても、女の子の字だと思う。
俺はその便箋を、隠すようにピンク色の封筒の中に入れたのだった…。
高瀬にはこの手紙のことを話していない。
………例え、ラブレターだとしても恥ずかしくて言えないし、
この前の不良のような奴等からの呼び出しでも、高瀬には言えない。
…どうしよう。
行ったほうがいいのかな?
呼び出しなんて初めてだから、よく分からない。
俺の悩みは結局解決することなく、ただ残酷に時間は過ぎていった……。
「仁湖、帰るぞ。」
「……あー、……えっと…」
何も約束していないが、成り行きで一緒に帰っている。
全く逆方向だというのに、高瀬は俺の家まで送ってくれているのだ。
……それは凄く嬉しい。
だけど、今日は別。
どうしよう………。
「えっと、……高瀬…」
「何だ…?」
「今日はちょっと用事があるから、先に帰っててくれないか?」
悩んだ結果、俺は手紙に書いていた通り、体育館裏に行こうと決心した。
「…何でだよ?」
「えっと、…先生に呼び出されてて…っ。」
ご、ごめん、高瀬。
ちょっと今日は嘘をつかせてくれ…っ。
頑なに黙っていなくてもいいだろうが、…やはりバレるのは少し恥ずかしい。
「……ふーん。…分かった。」
「う、うん。ごめんな。」
高瀬のことだからもっと食いついてくるかと思ったが、そうではなかったみたいだ。
……べ、別に少し寂しいとかは思ってないけど……。
何だか妙に物分りのいい高瀬に、少し疑問を感じる。
「じゃ、じゃぁ、また明日な。」
「あぁ……。」
そして高瀬は教室から出て行った。
俺は出て行く高瀬の背中を見つめながら、一つ深い溜息を吐く。
………さて、行くとしますか……。
________
「……って、誰も居ないんだけど……っ」
20分待ってみたが、誰も来ない。
……俺はもう一度便箋を見る。
時間はあっている。
放課後だよな…。
……しかし、何で差出名がないんだろう…。
やはりこれは冷やかしか、不良からの呼び出しなのかもしれない…。
痛い目に遭う前に帰った方がいいと思った俺は、早足でその場を去ろうとした瞬間に…、
「仁湖君!」
……声を掛けられた…。
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