陛下とお昼1




緑週後半。
私は、魅力の訓練をした。


女性になる……と思う。多分。


そう思っているから、やっぱりそれなりに綺麗でありたい。
田舎くさいなどと馬鹿にされるのは、しゃくだ。


ええ、どっかの馬鹿王子だけじゃなく
あちこちで噂もされてますことよ、ほほほほ!


あーあ……。


ぐったりして部屋に戻れば、部屋の掃除をし終えたらしい
侍従の姿がそこにあった。


「大丈夫ですか? レハト様」

「……サ―ニャ―」


授業が終わって部屋に入ると、サニャに両手を広げる。
サニャは仕方ないなぁと言わんばかりに私を抱き止めてくれる。


身長の低い私は、サニャの胸が丁度顔にあたる。
……役得だ。いや、違う。
これは癒しだ。癒し。



「お疲れのご様子ですね」


ローニカも、少し困ったように微笑む。
今日は、実習ということで衣装部屋で着替えのレクチャーがあった。

何度着替えても着替えても、オッケーが貰えず
着替えるだけ体力が減るというジレンマに陥っていた。


女性物は何とか、好みの差異はあっても分かる様になってきたんだけど……。
男性物がさっぱりだ。


「うう……衣装係の人達がひそひそするんだよ……。
お兄さんだか、お姉さんだか分からない口調の人は、厳しいしなー……」


でも、的を得ているし、
あの人と数人だけは田舎者だからと馬鹿にした表情をしない。
それが分かっただけでも収穫なんだけど、ひそひそは本人が居ない時に
こっそりして欲しかった。


「大丈夫ですよ。レハト様は、頑張っておられますです。
サニャは、知ってます。
今に見てろでございますよ」


サニャが、キリッとした表情で返してくれる。
ローニカも、ぽんぽんと背中を叩いてくれた。


「左様ですよ、レハト様。
努力をする者を笑うのは、彼らに自信がない証拠です」



愚痴れば、二人して大丈夫だと言ってくれる。



なんと優しい人たちだろう。
少しだけ頑張れそうな気がして来た。



「うん、ごめんね。ありがとう」


ぎゅっと抱きしめた後、
見上げればそばかすだらけの顔が微笑む。綺麗だなぁ。


「いいえ。レハト様。サニャは、頼って頂けて嬉しいです!」


サニャはふふっとお姉さんのように笑って、
ローニカもつられるように微笑む。


「レハト様。
無理をされて体を崩されるよりも、こうして吐き出して下さった方が
ずっとレハト様のお体に良いように思いますよ」

「……うん。ありがとう、ローニカ」


低い声に励まされて、私は笑う。
私は、幸せ者だ。
彼らとは一年の付き合いになるだろうけど、その間だけでも
彼らと仲良く、良い主人であったと言える人でありたい。


「よし。ちょっとでも、学ぶか」


そう思って、少しの間、衣装の図鑑を開く。
パラパラと図で表された組み合わせを見るだけでも、考えが少し
変わっていく。


そうか、あの布を合わせると……だから。
ええと、でもこれ何て解釈すればいいんだろう?
この文字が読めればなぁ……。





「……レハト様。お勉強中のところ、申し訳ありません。
昼食は如何なされますか?」


ローニカに問われた言葉に、あっと気づけばもうそんな頃合いらしい。
そういえば、その為に先生から解放されたんだった。
食べ終えたら、再びあの衣装部屋か。


若干げんなりしながら、それでも食べないわけにはいかない。



病は気から。
食べなきゃ有象無象に噂されて神経病んでしまう。


うーん……と考えてから、
もしかして出来るかなと閃いたアイディアに苦笑いした。

リリアノと昼食、だ。

平日に出来る訳が無い。
そう思うんだけど、思いついたら試してみたくなる。



「ちょっと、寄りたいところがあるから、そこでどうするか考える。
多分……広間で取ると思うけど」

考え考え言うと、ローニカはかしこまりましたと言って
私の後に付いて歩く。


「リリアノ、いるかなー?」
「……陛下ですか?」


王座の間までの道のり、何もしゃべらないのも何だからとローニカに問うと
少しだけ驚いたように聞き返される。


「そう。リリアノ。昼食に誘おうと思って」
「……ああ。しかし、陛下はお忙しい方ですからね」


どうでしょうかと少し唸るような仕草を見せた侍従に、
実はね、と秘密を打ち明ける。



「あのね、私、リリアノと友達になりたいんだ」

「…………」


笑って言うと、今度は少し口を開けたまま、ローニカが固まった。
何かおかしなこと言っただろうか。



「…………おともだち、ですか?」


随分長いこと歩いてから、ローニカが声を発した。
良い天気で良いなぁなどと思っていた私は、何の話だっけと
一度、振り返ってから頷いたのでタイムラグがある。


「……うん。友達」


見上げれば、老人にしか見えない侍従は、まじまじと私を見下ろしている。
子どもに向ける眼差しというよりは、
どういうつもりなのだろうと探るような目だ。


「……それは……」


言い淀むローニカ。
それに笑って、自分の考えを述べる。


「リリアノは公明正大で、良い人だと思う。
話は簡潔で分かりやすく、綺麗で素敵で憧れる。
だけど、本音を話すかといえばそれは違う。王様だから。
でも、それは寂しい。だから、出来れば友達になりたい」


はっきりとローニカを見つめて言う。
私の目に嘘が無いか、揺らいでいないかを見るかのように彼の目が細まる。
まるで、これから暗殺でもされかねないような雰囲気だ。


「…………」

「……左様でございますか」


じっと見つめ続けていたら、ローニカが静かに苦笑した。
それで空気が少し緩み、ふへーっとため息をつく。


「ローニカは、雰囲気のある人だねぇ。いま、ちょっと怖かったよ」


かまをかけるように笑って言うと
ローニカもふふっと笑ってこたえる。


「……それは褒め言葉と取ってよろしいのですかな。
レハト様を怖がらせてしまったのでしたら、申し訳ないのですが」


少しだけ目を伏せて言う彼に、今度は真剣に言う。
きっとローニカにしかやってもらえないことを。


「褒めてるよ。いつもありがとう。ローニカ。
おかしなことを言っていたら、そう言って欲しい。
気付かないで恥をかくよりも、事前に分かることの方が嬉しい」


笑って、歩みを止める。
王座の間の前についたからだ。


「…………。
…承知致しました。
本当にレハト様は、勉強熱心であらせられる。私めも嬉しく思いますよ」


言いながら、ローニカが先に王座の間を覗き、
エスコートするように掌を上に向けたまま、指し示す。

どうやら、リリアノはいるようだ。





「リリアノ―」


声を掛けてみる。
それに、リリアノが少し驚いたように大きな目を広げ、私の姿を確認すると
瞬きをした後、声をかけてくれる。


「どうした、レハト
こんな場所に訪れるとは、ひょっとして我に何か用か?」



王座の間は、相変わらずキラキラしている。
上からつり下げられたシャンデリアは相変わらず山のような蝋燭の数だ。
勿体ない。


上を軽く見回してから、リリアノに視点を合わす。
威風堂々たる彼女は、私の物珍しげな様子をじっと見ていたが、
視点があったことで少しだけ目元を緩めた。



「もしかしてだけど、これから謁見ある?」


気安く声をかけると、周りのお付きの人達の雰囲気が険悪になっているのに気付く。
陛下に対する態度まで分からないのか、無礼者めと。
そういうことでしょうかね。……怖いなぁ。



「えっと、謁見あるでしょうか。陛下」



仕方なく言いなおす。あるじゃなくて、ありますでしょうかの方が良かったかな。
敬語滅多に使わないから……と自分に言い訳していると
リリアノが苦笑した。


「ふっ、慣れぬ言いようだな。
なに、お主が喋り慣れた口調で構わぬ。正式な場ではそうもいかぬが、
ここには我とお主だけだ。気にするものはおるまいて」



陛下のお許しが出たよ。
彼女の後ろに控える数人に目で語る。だから、殺そうとかしないでね、と。


まあ、きっと許してくれそうだと思ってたから、こんな口調なんだけど。
ゲームで彼女の性格をある程度掴んで無かったら、こんな気安い口調じゃ話せない。


そうでなくては、敬語だっただろうし、深く踏み込もうなんて思いもしないだろう。
それほどに、彼女の存在感、完璧さはにじみ出ている。


でも、それを少しでも動かせる存在になりたい。
彼女が緩やかな自殺をするのが分かっていながら、1年を過ごすなんてとんでもないことだ。
そう思ったら、まずは友達にならなくてはいけない。


思わずリリアノが無意識で出しているだろう威厳オ―ラに、頭を垂れそうになりながら
胸を張って彼女を見上げる。



「ありがとー、リリアノ。じゃあ、この口調で喋るね」


笑って言えば、少しだけ驚くような気配と、目を細める彼女とで
良く分からないが、何かまたおかしなことを言ったかと思う。
眉根を寄せる私を放っておいて、リリアノは話しだす。


「本日は臨時の謁見があってな。今終わったところだ」

「あ。ほんと? やった!ラッキー!」


パンっと両手を合わせて言う。

気やす過ぎるかなと思ったけど、彼女に不快そうな気配は見えない。
これぐらいは大丈夫みたいだ。
距離感を測る為に乗せた言葉に、お付きの人達はかなり不興を買ったようだけどね。


睨んでる睨んでる。
こわいこわいこわい。すいませんすいません。こっち見んな。怖い!


一番問題の当人は、不思議そうに首を傾げた。



「何だ、レハト。本当に何ぞ用があったのか?」


用が無かったら、何で王座の間に来たと思ったんだろう。
タナッセにしてもそうだけど、時々この親子は天然で抜けている。


「お昼を一緒に取ろうと思って!」
「……ふむ、ちょうど昼の時間か」


少し考えるように手を唇に持っていくリリアノ。
パチリとその長い睫毛が揺れるのを見ていると、ふっと微笑まれた。


「よかろう。ついて来い」

「はーい。おっひる〜」


シャラシャラと彼女の髪飾りが揺れるのと、オレンジの上掛けがふわふわするのを
見ながら、広間への道を歩いた。





広間は、昼時だからか結構ざわついていた。


リリアノが入ってくると、少しだけざわつきが収まり、
その後に私が着いて歩くと、またさわさわと声が聞こえる。


「ほら……あれが」
「……ああ、なんだあんなのなのか」
「偽物じゃないのか?」
「陛下に取り入ろうという魂胆なのだろう。田舎者のくせに」



……あー。ぴよぴよとうるっさい。


ちらりと見ても、私の目線ぐらいでやめるような殊勝な人達では無いらしい。
生意気だとばかりに、更にこれみよがしな噂話になっている。
……もう無視だ無視。


ため息をついていると、リリアノが声を掛けてくれる。



「何か苦手なものがある場合は先に言っておけ。
何事も、言わなければ伝わらん」

「あ、うん。……苦手なもの……」


正直、貴族連中の目線が苦手ですが。
とか言っても困らせるだけだよなー。


「んー。今のところ特に無い、かな」
「……そうか。好き嫌いが無いのは良いことだな」


同じ卓につき、前菜と食前酒を軽く頂く。
ふわんと甘い香りと、少しの苦さに、ああと思いいたる。


「あー……、お酒が少し苦手かも」


どうにも日本人になじみのない習慣だけど、彼らは水のようにお酒を飲む。
甘い果実酒であっても、食前に出ることのない習慣が長い身には結構堪える。
というか14歳だしね!
未成年……まあ、あと一年で成人だけど、未成年だからね。

少し口をつけたワイングラスを卓に戻すと、
リリアノは何でもないことのように、控えていた人に目線をやる。


「そうか。では、果実を搾った物に替えさせよう」

「……え? わー!まったまった!勿体ない!」


お付きの人が、ワイングラスを持っていこうとするのを見て、
一口しか飲んでいないのに捨てるのだろうかと焦る。
高級そうな果実酒だ。

私の村での給料、60日分位だろうか。

いくら、酒が得意じゃ無くても一口で捨てるなんて恐ろしすぎる。


「……苦手なのだろう?」


不思議そうに眉根を寄せるリリアノ。
理解できないと言わんばかりだ。


「苦手だよ苦手。でも、一口で捨てたら罰が当たる。
これ、多分高いお酒でしょ。村で働いたって手に入らないような……綺麗な色だもん。
苦手なのを忘れて口付けた私が悪いんだから、最後まで頂くよ。
……あ、ごめんなさい。御手数かけました」


最後は、お付きの人に言ってワイングラスを手元に戻してもらう。


まるで宿敵にあったかのような表情で、私はそれを見つめ
くっと少し喉にそれを入れる。
カッと体が熱くなるのを感じた。


リリアノは、そんな私を不思議そうに見てから
ふふっと笑いだした。


「お主は、おかしな性分だな」

「……リリアノに言われたくない」


苦みと甘みと、慣れないせいでクラクラとする酒の特性に負けないように
何度も何度も口をつけては顔を上げているとその様も面白いらしい。
リリアノがくすくすと笑っている。


「おや。お主になにかそのような面を見せたことがあったかな」

「……無いけど。無いけど、
でも、そんな感じがする。……あー飲めた。美味しいお酒でした」


ふへーっと椅子に体を軽く預けると、リリアノが悪戯めいた目でこちらを見ている。


「そうか。では、かわりはいるか?」
「んー? 何かすっごい笑顔だけど、お酒飲まそうとしてる?」


首を傾げて聞くと、リリアノはふっと口元を上げて


「おや、ばれたか」


茶目っ気たっぷりに言うので、思わず脱力した。
あの息子にしてこの母ありだ。



「そりゃ無いよ。いま頑張ってたの知ってるでしょうに」


言いながら、それが子どもの遊びの様で思わず笑ってしまう。
リリアノもくつくつと喉を鳴らしている。



そうして和やかに食事が始まり、メインの料理にナイフとフォークを差し込んだ辺りで
リリアノが少し目をきつくした。


「さて、我に何か言いたいことがあるのならば、
遠慮なく言え。聞くぞ」


肉を切り分ける際に音を出さないように、と神経を配っていた私は
何を話すべきかなと頭を働かせる。


自分のことか、リリアノのことか。

あとは何だろう。当たり障りない……今日の天気とか、
ローニカがどうした、サニャがどうした、貴族が……という話だろうか。
それを言っても良いけど、何にも進展しないよなぁ。


やっぱり仲良くなるには相手のことを知らないと駄目だろうか。
そう思って、口に出す。



「リリアノのことが聞きたい」


真っ正面から見ると、彼女の印がほんのりとした光を伴って
彼女の顔を照らすようにしているのが分かる。
停電の時とか、ちょっと便利そうだよね。

……いや、電気無いけど。


同じものが額にある身としても、不思議だと思えるそれをぼーっと見つめていると
リリアノが、軽く驚きを含んだような声色で喋る。


「我のことか?
ふむ、取りたてて話すようなこともないと思うが……
いや、これは我の思いこみか」


「『何事も、言わなければ伝わらん』でしょ?」


私が真似をして言うと、
リリアノがニヤリと笑って続ける。




「なるほど。お主にとっては面白いのかもしれんな。
そうだな、では、何を話そうか」


言って、私を待つ間にメインの料理をそっと口に運ぶ。
優美だ。凄い。綺麗に食べるものだなぁ。


……たぶん、私の食べ方は駄目だろうなぁ。

人を見てわが身を顧みる。
どうにか、リリアノのやり方を真似できないかとリリアノが食べれば
同じように食べてみたりする。

何か違う気がする。


「どうした」


待っていたのか、じっと手元ばかり見ている私に声を掛けてくるリリアノ。
しまった。うっかりこっちに集中しすぎた。


「んーっと、あ。その、趣味!ご趣味はなんですか」


お見合いか!
自分で言っててちょっとそう思ったけど、リリアノはそうは感じなかったらしい。



「我に趣味を聞くか。面白いな、お主は」



彼女は目を開いて、ふふっと何度目かの笑みを浮かべる。
それは妙に余裕のある言葉で、咄嗟に言っただけだけにしては、
中々の話題だと思った私は不満だ。


「えー、ご趣味はなんですかって仲良くなる時の定番じゃないの?」


まあ、主にお見合いで。
そう思いながら、面倒になってカチャカチャと音を立てて食事を摂る。
リリアノは、先ほどよりは驚いていない様子で、それでも感心するかのような声を出した。


「我と仲良くなろうとしているのか、お主は」
「……え? 駄目?」


き、切れない。切れないぞこの肉!
なんだこいつ、リリアノにはあんなにシュッシュと切られてたくせに!
綺麗な人とそうでない人を差別してはいけませんよ。

そんな風にお肉と大格闘してた私は、リリアノの言葉にバッと顔を上げる。



「……ふむ、その言葉に打算があるのか無いのか。
分からぬな。
だが、存外、自分に興味を持たれることは悪い気持ちはせぬものだ」



どうやら良いらしい。
お芝居のような言いようを一度、喉で鳴らしてみて、
友達になっても良いのだろうかという疑問を打ち消す。




「さて、趣味だったな。
公務に忙しく、持つ暇などないよ。
……と言いたいところではあるが、実はなくはない」


「ふむふむ」


頷いて口に肉を頬張る。
喉に詰まって、お水で流し込んでいるうちに、リリアノはふっと悪戯めいた顔で
そうだな、と呟いた。


「今は秘密にしておこう。
こういうものは隠されているうちが面白いものよ。
実際のところ大したものではないのだがな」



あー。ご趣味は、釣りですよね。知ってます。


そう顔に出さないように、微妙な表情になる私。
笑えば良いのか困ればいいのか。
むしろ、怒れば良いのかな。


「そのような顔をするでない」

「う? ……まあ、良いや。じゃあ、今度教えてくれたら嬉しいな」


どんな顔してたんだ、私。
ちょっとそう思いながらも、この話題はこれで終わりだろう。
少しだけ眉尻を下げたリリアノに、気を悪くされないようにまとめる。


こくりと頷く彼女と、今度は他愛も無い話をかわす。




しばらくそうして食事と会話を堪能し、楽しい一時を過ごした。
執務があるから、と席を立つ彼女を見送ろうとして、思いついた言葉をかける。


「あのさ!」


大きい声じゃなかったけど、リリアノには聞こえたらしい。
近従を率いたまま、少しだけこちらに体を戻すリリアノ。

出来る限り、彼女と目を合わせて言えるようにと
小さな背を精いっぱい伸ばして、見上げる。



「サニャとローニカを、私の侍従にしてくれてありがとう」

「…………」



今度こそ、本当に目が取れそうな程リリアノが驚いた顔をしている。
そんな少し間抜けにも見える顔が可愛くて笑う。



「二人がいてくれて、すごくすごく助かってる。
私を変な目で見ないのは……今のところ、ローニカとサニャと、おばちゃんと……
リリアノとヴァイルだけ」


タナッセ、と言おうとして
変な目どころか、軽蔑、侮蔑の目で見てくることを思い出して苦笑いにかえる。




「二人だけ私の侍従ってことは、
そういう人を選ぶの、すっごく大変なことなんだろうな、って思うんだ。
だから、ありがとう。リリアノ」



言えることを言える時に。
一度死んだ身は、それだけが武器だと知ってる。



「お主の気に入ったのならば、僥倖だ。
……しかし、連れて来られてすぐにそこに思い至る思考は、如何にしたものか。
お主というものが分かりかねるな」


面映ゆいというような表情で、それでもなお
何かの可能性を考えてなのか、リリアノは私をジッと見つめる。


私の真意など何も無い。
ただ、感謝を伝えたかった。それだけ。


暗殺の危険だけじゃない。
貴族でないことで馬鹿にするような侍従では駄目だろう。
噂好きで、何でも話してしまうようでも駄目だろう。
特に、最初のうちの出来ないことが多数ある時の噂なんて死活問題になる。

王城に仕えるのだから、それなりに身分のある者ばかりで、
ようするに田舎者の侍従に出来るような者も少ない中、
よくあの二人を見つけてくれたと思ったのだ。


……まあ、気付いたのは リリアノの近従が
私が喋る度にイライラしている様子なのを見てだけど。




「……うん。直ぐに分かってもらおうなんて思ってない。
でも、私は、こういう私だよ。
嘘をつくのが下手だから、言いたいことを言ってるつもり」


言って少し口元を緩ませると、リリアノの口元も緩む。


「そうか。お主は本当に面白いな。
また時があえば、話す機会もあろう。
ではな」



年下の者を見る目でなく、リリアノが初めて同じ土俵で私を見た気がした。
そして、裾を翻して去っていく。



その去り方に、どっかの某王子様を思い出して笑ってしまう。


似てる。
本当に、どっか似てる。




「レハト様……」

「あ、ごめん。ローニカ。
午後の授業があるよね!いかなきゃっ」


私の側付きとして、世話を焼いていたローニカが、戸惑う様に声を掛けてくれる。
それにはっとして、立ちあがり急いで部屋に戻る道を歩く。


大分見慣れた私の部屋。
自分で手をかけそうになって、ローニカがさっと前に出たことで
彼に任せることを、思い出す。


でも、ローニカはドアを押さずに
こちらを向いて微笑んだ。



「レハト様、私は貴方様にお仕え出来て嬉しく思いますよ」

「……え。いや、えっと?」


「先ほどの陛下との広間でのやり取りです。
何かをやって頂いて当たり前だと、やって頂けないことを嘆く貴族が多い中、
ああして感謝の意を述べる方は、本当に少ないと思います。
貴方様は、素晴らしい方だと」


にっこり微笑むローニカの言葉は、褒め言葉が過剰すぎる。
真っ赤になってきた頬を誤魔化すように両手を振って、ちがうちがうと言うが
微笑まれるだけで終わる。


「……そんな大層なこと言ってないのに……」



ぶつぶつと呟いて、ドアを開けて貰う。


なるべく侍従に任せる習慣も、まだ馴染まない。
それでも、少しでも何かを得る為に魅力訓練の先生に頭を下げた。






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