紹介






ヴァイルが去ってから、
ローニカは、ヴァイルのことを話してくれた。


彼は、第六代国王になる予定であり、
国王であるリリアノの弟の令息。

つまり、リリアノからは甥にあたること。


おおらかな性格だから、仲良くするのは好ましいが
言葉づかいは真似しないようにとのこと。


一応、頷きつつも、真似するとかでなく、
元からヴァイル寄りなんだけどなぁと苦笑する。


ローニカから、私はどう見えているんだろう。


大人しい子ども?


……そうかもしれない。
彼に話しかけた記憶が今のところ無い私は、そう判断して
彼の説明に耳を傾ける。



話は、これからの生活についてに変わる。


しばらくは城から出ないように。
慣れたら、城下町に出ることも出来ること。

また、勉強し、城に慣れるようにと言われる。
ここで暮らしていけるように。


その言葉に、村にはもう戻れないのだと改めて思う。
分かっていたことだけど、少し寂しく感じる。



「一週間、つまり十日のうち八日は、それぞれの教師に
ついて学んでいただくことになるでしょう。
その中でも重点的に行うものを決めておかれると、はかどるでしょうね」


ローニカは、淡々と説明をしていく。

一週間が10日という時点で、オイオイと思わなくもないけれど
14年の間に、何とかそこの齟齬は慣れて来ている。


5日と10日は休みにするとの説明に
元の世界の一週間と余り変わらないなと感じたせいもある。


勉強かぁ……。

嫌いではないけど、中間や期末試験の時に
焦ってするタイプだっただけに、家庭教師がつくような今が
信じられない。

しない訳にもいかないわけだけど。



「さて、道すがらお話はさせていただきましたが、改めて確
認されたいこともあるかと存じます。
今のうちにお答えしておきますので、何でもお聞きください」



ローニカが穏やかに質問はあるかと問うてくる。


選定印についてや、
成人と王位継承、王城について、
聞くべきことの殆どは頭に入っている。


だから、それには首を振って
思っていたことを口に出す。


「あの、ローニカさん」

「……どうぞ、ローニカと」


口に出すと、自分の声は高い子どもの声だと感じる。
それにゆったりと頷くローニカは、微笑ましそうな笑みだ。


「ローニカ。私のことは、レハトと呼んでもらえない?」


聞けば、少しだけ目を開いた後、
ローニカは被りをふった。


「申し訳ございません。
貴方様を呼び捨てにするわけには参りません。
……お気持ちは嬉しく思いますが」


少しだけ口を尖らせた私を、ローニカは宥めるように言う。
それにため息をついてから頷く。


「じゃあ、せめて貴方様じゃなく、名前にしてね」


見上げれば、頷いてくれる。
様付けされるような身分じゃないし、むず痒いけど仕方がない。


「かしこまりました。レハト様」


様か……。レハト様。
……うーん……。


うやうやしくローニカが言うのを複雑な表情で見ていれば
苦笑されてしまった。


好々爺のような笑みの後、
何か分からないことがあれば、簡単な書付があることを告げ
侍従として彼は、勤めを果たす。


「そろそろ私めは下がらせていただきます。
お疲れの体をゆっくりお休めいただきますよう。
ではまた明日、場内のご案内にお迎え申し上げます」




言って、ドアが閉まる。

パタンと音が鳴るのを聞いてから
私は広いベッドにダイブする。


ぶよんっと反発し、ベッドは私の体を受け止める。
柔らかい。大きい。
お姫様にでもなったかのようだ。


天蓋のついたベッド。
フリルのあるそれは、今まで人生でも、過去の人生でも縁の無いものだ。
ベッドからだろうか、花のような良い香りもする。


大きさも大きい。
大人2人位なら軽く受け止めてしまうように見える。


つまり、子どもの私には大きすぎる。
真ん中に収まってみたものの、面積が余る余る。


枕だって横に長すぎるだろうに。


そんなことを思いつつも、村からここまでの慣れない鹿車。
王様に、貴族たち。
王城。出会うはずもなかった彼らとの邂逅。


すべてが緊張の連続だったせいか、
うとうとと、眠気が襲ってくる。


「……明日から、大変だぁ」


そのことを思えば、気が重くもなる。


それでも、食いっぱぐれることはないし、
暗殺される恐れも、今のところは無いと言える。


思った以上に綺麗だった色々なこと。
思った以上に気持ち悪い人の視線や噂話。



それでも、ここでやってみよう。
馬鹿にされたままでは嫌だ。



それを思い出し、私は眉をひそめてから
ゆっくりと目を閉じた。

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