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太陽に溶かされた


朱桜くんにエスコートされ、ニューディへと向かうあんずの後ろ姿をみた。ああ、愛されてるなあ、と思う反面、自分はああいったことされないな、と思い返す。
別にエスコートしてほしいわけでもないし、なんなら仕事中はそういうことしないでほしい。こちらは真面目に仕事をしているんだ。

…と、わずかな嫉妬心に蓋をした。
蔑ろにされているわけではない。ある程度の信頼と、評価もある。一人のプロデューサーとしても、ちゃんと女子として扱われていることも自覚している。
不満はないのに。


「羨ましそうな顔してるね?」

横から声をかけられ、びくりと肩を揺らす。すぐ近くにいたのは日和さんで、あんずを見ていたところを見られてしまっていたらしい。

「羨ましいとは思ってないんですけどね…」
「そう?ああされてみたいなって思ったでしょ?」
「ぐっ……まあ少なからずは、嫉妬しました…」
「うんうん、素直なのがいいね!」

視線を、小さくなった彼らの背中にむけながら。
嫉妬。嫉妬…その言葉が一番近いのだろう。もしかしたら人はこの感情を嫉妬というのかもしれない。
自分としては少し違うのだが。嫉妬といえばまわりはわかりやすいか。

「それで、双葉ちゃんはこれからどこの事務所にいくの?」

わたしの押し込めようとした感情を取り出しておきながら、この人はマイペースに進めていく。それが悪いことかと言われればそうではない。むしろ今の私には眩しすぎる。

「コズプロです」
「ならその嫉妬の問題は解決されるね!」

いや。今この人いい具合なんだよな、と思ったところで、話題は変わっていなかったみたいだ。わたしの嫉妬心の行きどころを示してくれるらしい。
どんなご案内になるのかと思いきや、きれいな手のひらが静かに差し出された。

「お手をどうぞ?」
「はい?」
「何、ぼくのエスコートじゃ不満?」

不満なんて、あるわけない。不満なんてどこにも。
むっとした顔を隠すことなく現す日和さんに、わたしはそっとその手に手を重ねる。
握られた手の力は強すぎず、弱すぎず。わたしの手を離さない強さで、優しさを体現したように弱い。

「イイコだね」
「…あの、日和さん」
「さ、ぼくと一緒にコズプロへ行こうね!」


ぐいっと引かれた腕に遠慮はない。その強引さが今の私にはとても優しくて愛しいものに思えた。



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