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ニキくんに問う

「あの、椎名さんって昔テレビに出たことありますか?」
「んぃ??」

突然のことで食べ物を咀嚼していたニキは目の前のプロデューサーである双葉へと視線を向けた。

「あ、すみません。ずっと気になっていて。料理番組……に、でてませんでしたか?」

その言葉で何を言われているのかわかってしまった。隠しておきたい事実。プロデューサーに聞かれるとは思っておらず、むしろ既に知られていると思っていた。
おそらく目の前のプロデューサーは知らなかったのだろう。そして自分の力で知ったか、思い出したか。
それを本人に聞くというのは、あのときの父の待遇を思えば選択しないはずなのだが。

「んん……まあ、何回かでたことあるっすねぇ」

と、いろいろ考えはしたが、難しいことはわからない。考えても答えはでないだろうし、頭を使えばエネルギーを使うので、ニキはそこで考えるのをやめた。そして差し障りのない答えにした。あまり深い返事をすると墓穴を掘るかしそうだったから。
ただしこの答えに双葉が目を輝かせるなど思ってもおらず、流れで顔を赤くして俯くまでを傍観して疑問に思う。何で顔を赤くしたのか?

「やっぱりそうですよね、記憶違いかと思っちゃった…いやでもよかったのかどうなんだ…」

ぶつぶつと最後のほうは呟くようにしていった。よくわからない。というか自分に聞くよりも、周りや年上の人間に聞けばその情報は得られただろうに。

「なんで僕に聞いたんすか?」
「だ、だめでした?」

さも悪くないことのようにいうその顔にはまだ赤みがかっていて、視線があうと双葉はとっさに視線をそらせた。

「別にいいっすけど…ていうかなんでプロデューサーさんは顔赤いんです?」
「あっいやっその!…えっと……」
「????」
「まさかあの、テレビ画面越しにみていた“にきくん”と、直接はなしてるって思うとなんだか…は、恥ずかしくなっちゃって」

目の前の恥じらう乙女に、ニキは今、特になにも思うことはない。むしろ何故彼女が恥じらう必要があるのか、その理由がわからないからなのだが。

「恥ずかしくなる要素あります〜?どっちかっていうと僕のほうが恥ずかしいやつじゃ??」

そう、どちらかといえば過去を掘り返されたニキのほうが恥ずかしがる立場のはず。今さら、子供の頃に親の番組に手伝いででたことを掘り返されて、むずむずしている。

「あ…う……その、」
「その?」
「わ、わたしの初恋が、“にきくん”なので…」

よくわからん、と食べ物を会話中も咀嚼して飲み込んでいたニキは、双葉の口から出た言葉に思わず手も口も止めた。

「………え??」


目の前の恥じらうプロデューサー。顔だけでなく耳も、腕も赤くして、ニキの目の前に座っている。
止まった手を再び進めるのは果たしていつになるのか。真相はニキだけが知っている。



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