映り込む映像つんとした臭いが鼻をつく。重たい目蓋を開けると、そこに人影など一つもなく、ただ赤々としたまだ乾いていない血がいたる処に目立っていた。 ここはどこだ、どうして私はこんな処にいるの。ミナはいつの間にかカタカタと肩を震わせてただ呆然としていた。するとグチャリ、と何かが何かを踏む音が聞こえて小さくミナの悲鳴が響いた。 「あれ〜? オ前ダレだァ?」 「っ、ひ……!」 「マァいいカ、オレもうスぐレベル3になれルンだヨ、ダカラさァ…オレのために死ネヨ!!」 人とは違う黒い塊がミナに向かってきた。ミナはもう何が何だか理解出来る筈もなく、ただただ怯える事しか出来なかった。 こんな状況でも泣いていないミナ。それは彼女の過去に関係があるのだが、それは今は関係ないだろう。 「(…私ここで死ぬのかな、まだ死にたくないなぁ…。だって私、何でここにいるのかも分からないのに…、あんな変な生物になんて殺されたくないよ……!!)」 ミナ何故かズキズキと痛む頭に手をやる。ツウと伝うのは冷や汗だ。この状況からどうやって逃れようと恐怖に怯えながら思考を巡らせていると、右手に何かが触れているのに気づいた。 目の前の黒い塊からチラッと目を移すと、ここにあるにはあまりにも不自然な刀だった。 「……かた、な…? 何でこんなとこに……」 無意識に刀を手に収めると、しっくりきた事に驚く。まるで自分の為の刀。 「シネェェエエ!!」 黒い塊が叫びながら迫ってきた。考えてる暇はないとミナは半ば無理やりに考える事をやめて本能のままに体を動かした。 「な、んダト……!」 「っ、やった………?」 「イノ、イノセンス、のは、反応ハしなカッタ!! ナゼだ、ナゼダナゼダナゼダ!!!」 黒い塊は狂ったように叫び、やがて壊れていった。 安心からかぺたりとへたり座ってしまう。刀を持っていた手は小刻みに震え、カチャカチャと音を立てる。 「今の、なに…」 漏れた声は頼りなく消えていった。ミナの顔は青白く、今にも吐いてしまいそうだ。 頭は痛いしここが何処だか分からない。 そんな最悪な状況をどうにか打破しようと、ガクガクと震える体に鞭を打って立ち上がった。刀をしっかりと持ち直し、元は綺麗な街並みだった筈の今はもう瓦礫と化してしまった地面を踏みしめ、歩き進んだ。 森の中に入ると、いきなりどっと疲れてしまったかのように前から倒れてしまった。体を強く強打しても、もう指先一つ動かせない。 いやだ、死にたくない。 赤子のようにそればかりがミナの頭の中でリピートされる。 「……たい、よう……」 チカチカするのはどうやら太陽が昇ったせいみたいだ。 「――さんの髪の毛、お日様みたい!」 「はあ? どこがやねん」 「えー? ほら、キラキラしてる! あははっ、お日様ー!!」 「いだだだ!! っンのアホミナ! 髪引っ張んなや!!」 「きゃー! ――さんが怒ったぁー!!」 誰だ、今のは。 さっきよりも一層痛む頭を地面に擦り付ける。一人はミナと同じ名前だった。ならばもう一人は?いくら考えても出ない答えに苛立ちは募って行く。 「そこにいるのは誰ですか」 冷たい、張り詰めた声がこの場を支配した。 それは、ミナが“この世界”に来てから僅か二時間後の事だった。 |