救いの陽射し森の奥から姿を現したのは青年だった。服装は一言で言うと"黒"、これしかない。やっと人に会えた、とホッと息を吐くミナだが、目の前の男と目が合うとその気も失せてしまった。 何故なら男は、まるで彼女を化け物のように見ていたのだ。 「…AKUMAか、」 「悪魔…? …そんな訳ないじゃないですか」 「それは分かりませんね、アクマは皆そう言いますから」 「っ…だいたい、いい大人が悪魔を信じてるんですか?」 「(アクマを知らない…? ならばこの女性は人間……?)」 すっかり黙り込んでしまった男を尻目に、ゆっくりと起き上がり太い木に背中を預けるミナ。その顔は疲れの色が有り有りと浮かんでいた。 しかしそれでも表情一つ変えないミナに男はまるで自分たちのようだと錯覚を覚えた。何せ自分たちは笑う事すら必要とされていないし、自分も必要だとは思わないからだ。 しかしそれは自分たちが特別な組織に入っているからで、目の前のミナは違う。手に持っている刀はどうであれ、彼女は一般人なのだから。 「…行く所はあるんですか?」 「行く所……まずここが何処なのかも分からないです、から…」 「……ならば、着いて来なさい」 「……?」 男はミナに手を貸して立たせ歩かそうとするが、なかなかミナの足は動かない。それもそうだろう、さっきまでとてつもなく怖い思いをした上に何故か自分は傷だらけなのだから。 切り傷だらけのミナの体に男は密かに眉根を寄せ、彼女を横抱きに抱えた。 「う、わっ! ちょっと何する、」 「ジッとしてなさい、落ちますよ」 「……ありがとう、ございます」 「いえ。私はハワード・リンクと言います。貴方は?」 「私は白崎ミナです」 「アジア系の名前ですね……中国人ですか?」 「いえ、日本です」 「日本!?」 「? はい…何か?」 「いえ……何でもありません」 ミナの出身国に驚く男、もといリンク。しかしそれも一瞬だけで次の瞬間にはいつもの表情に戻っていた。 ビュンビュンと過ぎて行く風の音に耳を傾けていると、目的地に着いたようだ。 「ここは…?」 「中央庁、と呼ばれる所です」 降ろしますよ、と丁寧に口にしてミナを地面に立たす。手を引きながらリンクはミナの歩くスピードに合わせて中へと入った。 ミナは終始物珍しそうにあっちへキョロキョロそっちへキョロキョロと忙しなく目線を動かしている。そんなミナをどこか小動物みたいだとリンクはふと思い、クスリと口元を緩めた。 |