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今戦っているアレン達以外の目が、ミナへ向く。その全てを浴びているミナは守るようにルベリエ達の前へ立った。



「死神…?」

「死神って、あの、骸骨の…」

「それは人間達が勝手に想像した姿。当然鎌も持っていないし、死んだ魂を迎えに行くなんて事もしない」



ばっさりと切り捨てられた自分達の想像上の死神像。ならば一体何だと言うのか、誰もが疑問に思ったその時、



「死んでしまうぞ、神田ッッ!!」




ズゥの大声に皆の意識がそこへ向いた。ミナも見てみれば、そこにはもう普段の神田はいなかった。

ただ無差別に斬っていく、鬼のようだった。

神田は六幻でアレンをも斬る。斬られたアレンは痛そうに顔を歪めながら右肩に手を置いて、耐える。



「班長、アレンが…っ」

「な…、うそだろ…神田…っ、アレンを本気で斬ったのか…っ!?」



リーバーが信じられない、という声色を含ませる。そうしている間にもトクサが攻撃を終わらせる事はない。突然雷のようなものに襲われ、リーバー達は呻き声を上げる。

ミナも近くにいたため、その攻撃を浴びてしまった。



「ぐ、っ、…トク、サ…!」



いやだ、もうやめて

これ以上、トクサが誰かを、仲間を傷つけるところなんて見たくないの。



「ぐぅっ!頼む…っ、精霊石よ!! もう少し……、もう少し時間をくれ……!!」

「倒れんじゃねぇぞ、バク!! 倒れたらみんな終わりだ!!」



辛そうなバクに喝を入れるフォー。一瞬目を離したフォーに、ティキはその隙を見過ごすことなく攻撃するが、フォーは持ち前の反射神経で何とか躱す。



「健気だねぇ…。でも、それが命取りだぜ」



――なぁ、少年?







アレンは痛む肩にほんの少し苦笑し、また目に力を宿して立ち上がった。

その目の先は――…





「尽き果てろぉっ!!!」



アルマは掌を神田に向けて、衝撃波のようなものを放つ。それをマトモにくらった神田だが、もう我を忘れている神田にとって痛みは感じないのだろう。

それでも、アルマの攻撃が止むことはない。



「死ねっ、死ねっ、ここで…っ、ここで死んでくれ…!!」



けれど、バシュッ!という音と共に、アルマの攻撃はアレンによって止められた。



「どうしてなんです…?」



アルマはその目に涙を溜めて、アレンを見上げた。



「僕がノアに視せられたように、キミも視たはずだ。9年前、神田が生きることを選んだ理由ワケを…。

それでも許せないのか!?」



アレンが叫んだ直後、神田はズシャッと崩れ落ちた。そんな神田の元へ行こうとした瞬間、アルマに尻尾のようなもので体を縛られてしまう。





「…私は、向こうに行ってきます」

「ミナ…?」

「貴方に、長官の元で戦えたことを、私は光栄に思います。けれど、私の上司は、隊長は、あの人しかいないんです」



アルマの体に異変が起きた。それをさも滑稽とでも言うように伯爵は嘲笑った。



「たとえこの世界にいなくても、必ずあの人の元へ帰ると決めているんです。こんな、こんなところで死んでられない」



それでも神田を殺そうとするアルマを目掛けて、神田が刀を振り下ろした。咄嗟にアレンがアルマを抱いて躱すが、神田の目には最早アルマしか映っていない。



「私は、エクソシストである前に、死神です。そしてAKUMAとは、死んだ魂も材料の一つだと…私は貴方達から聞きました。

それなら、私の戦う理由はもうそれしかないんです」


「ほんま、ええ加減にしろや、アホミナ。ええか、約束しろ。無茶すんな、絶対ここに帰ってこい、ええな」




それなら、帰る前にちゃんと仕事しないと。

ギュッと掌を握りしめ、ミナは地面を蹴った。






「……あきれた!一体何考えてんのかと思ったら、キミ何も考えてませんね?」



アレンの笑いを含んだような声が、ミナの耳に届いた。それでもまだ距離は遠く、瞬歩を使い急ぐ。



「こんなになったアルマを目の前にして、思考に蓋をした…。考えると辛いから!アルマと正面から向き合おうともしない…っ。

教団への怒りを捨ててでも一緒に生きたいと思った大事な人なんじゃないんですか!!

なに逃げてるんだ、神田ッ!!




アレンの叫びに、神田はついに怒りを露わにした。それは先程の非じゃなく、六幻もそれに応えるように変化した。

ミナは必死になって走る。二人は仲間。仲間同士が争ったって残るのは虚しさと、後悔だけだから。それを知っているミナだからこそ、どうしても止めたいのだ。

この、無利益な争いを。



「なんなんだよ、お前?アルマをAKUMAにしたのは、お前だろ。支部を潰し、第三使徒サードエクソシストを化物にしたのも、ノアのくせに教団にいるお前のせいだろ」



アレンを責める物言いに、さすがのアレンもキレた。左手をイノセンスに変えて、その顔に怒りを映す。



「神田ぁ!!」

「全部お前のせいだろうが、ノア野郎おっ!!」




ついに、二人が互いに刃を向け合った。それでも、周りで見ていた者はすぐに違和感を感じた。



破壊ノ爪エッジ・エンド!!

五幻・爆魄斬ばくはくざん!!



アレンは、神田に一度も攻撃をしていない。そして、神田の攻撃を全て受けているのだ。



「…どうして、」



ぽつり、とミナの声が落ちた。

アルマが泣きながらアレンを攻撃する。アレンはすぐにアルマを見たが、そこには瞳に涙を浮かべているアルマがいた。


アレンが神田に向かって叫ぶ、と同時にミナも猛スピードで二人の元へ走る。
あともう少し、というところで神田は六幻をアレンへ突き刺した。

無抵抗な、アレンに。



「な、っ、ウォーカー、さん…!」



ミナの驚愕する声が、虚しく響いた。

アレンが神田に刺されて、喜ぶノア。驚き、悲しむ教団。

そんな中、神田の荒い呼吸が次第に整っていく。そこへアレンがそっと口を開いた。



「ちゃんと…、アルマの顔見てくださいよ。なんで……あんな顔するのか、僕じゃ全然…、わからないんですよ…っ」



アレンがゴプッと口から血を吐く。その顔に笑顔を浮かべたアレンは、勢いに任せて神田を突き飛ばした。当然六幻もアレンの体から抜かれる。



「モ…、モヤシ…っ」



正気に戻ったのか、神田が戸惑うようにいつものアレンの名前を呼んだ。けれどアレンにはもう聞こえていない。

それを知らせるかのように、アレンの体はノアのように褐色に染まっていく。



「チッ…、ウォーカーさん!!」



ミナはアレンの元へしゃがみこみ、傷を調べる。生憎自分は五番隊。治療を専門にはしていないため、何もすることがない。



「(卯の花隊長がいて下さったら…っ)、ウォーカーさん!しっかりして!! ウォーカーさん!!」



今のアレンは外の傷よりも内側からのダメージが大きいため、本当に手の施しようがない。しかもノアとかそこら辺の知識は皆無だから、無闇矢鱈に触るわけにはいかない。


すると、いきなりアレンの体が浮き上がった。咄嗟に後ろへ飛び退いたミナは爆風に巻き込まれる事はなかったが、アレンはまるで怨霊のような、幽霊のようなものに包まれている。

辺りには笑い声のような地鳴りが響く。


すると、伯爵が神田に対してお礼を言った。それは勿論この場にいる全員に聞こえている。



「ありがとう、神田ユウ! 覚醒デスヨ! 貴方がイノセンスでアレン・ウォーカーをボロボロ〜に傷つけてくれたおかげで!

彼の内に潜む「14番目」が完全に呼び起こされたのデス!!」



純粋なエクソシストならば、例えイノセンスに斬りつけられたところで何の変化もない。だけど、アレンは違う。アレンは純粋なエクソシストなどではない。



「ノアはイノセンスへの憎しみを決して忘れナイ! 傷つけられれば傷つけられる程、それは吹き出すノデス!!」



その言葉を聞けば、神田も分かったのだろう。先程、自分が散々斬りつけた後に無抵抗のアレンへ六幻を突き刺したから、アレンがああなってしまったのだと。


そんな神田の様子に伯爵はお世辞にも綺麗とは言えない笑顔を神田に向けた。



「ありがとウ!! アレン・ウォーカーはもう終わりデス!!」



この為だけにアルマと神田の二人の過去を利用した事に気づいたリーバーは、口元に伝う血を拭いもせずに悲しげに呟いた。



「そんな…そんなっ、そんなあああぁ!!!



ジョニーの叫び声は、皮肉にもアレンには届かなかった。