09おとそうか?そう言ったクロスは本当にアレンを掴んでいた手を容赦無く離した。 「マジ…?」 「あの…だれッスか…?」 「クロス…元帥…」 「師匠……」 皆が信じられないとでも言いたげな目でクロスを見つめるが、クロスは気にせず耳をガジガジと弄っている。 そしてアレンに手を差し伸べたかと思ったら、胸ぐらをぐわっぱと掴み、リナリーとチャオジーのいる所へ投げた。 「汚ねェんだよ、馬鹿弟子がッ!オラ、貴様もあっちいけ。美しいもんは傍においてやるが、汚ねェのは(女以外)オレに近づくな」 「酷い言われようさ……」 挙句の果てにはラビにまでこの始末。ギロリと光る目を見てしまえば、反論はしたくてもできないのが悲しい。 そしてクロスの目はついにミナを捉えた。パチリと合う目にミナは思わず身構えてしまう。 何せクロスという男のことをミナはよくルベリエから聞いているのだから。 女好き、借金男、放浪癖、その他多数のことを…。 「……お前が中央庁から派遣されたエクソシストか…?」 「は、はい。白崎ミナと申します」 「ふぅん…結構いい女じゃねェか」 ニヤリと含みのある笑いにミナは寒気がした。 コッチへ来い、とクロスが手招きするが生憎体は動かない。それもそうだろう。もう体はボロボロなのだ、動くわけがない。 「(卍解……)」 パッと思い浮かぶのは自分の最大の武器の存在。卍解してしまえば体を動かす事は可能になる、が、その分代償は大きい。 「卍解は俺がおらん時は使うなや、絶対やぞ!」 あれは彼個人の約束ではない。隊長としての"命令"だ。 その命令を破る訳にはいかないのだ。 ミナが動く様子がないと判断したのか、クロスはミナから視線を外してティキを見た。 「ノアにのまれたか…一族の名が泣くぜ?オン アバタ ウラ マサラカト 柩から出てきたのは女。女はクロスの手を取り、賛美歌を歌い出した。すると一瞬にしてアレン達の姿が見えなくなってしまった。 その様子を呆然と見ていたミナは状況が把握出来ず、ただ戸惑っていた。 ティキも同じなようで、突然消えてしまったアレン達を探そうとするも、見つからない。ミナの今いる位置は、ティキからは死角だったのか狙われる気配はない。 やがてティキは狙いをクロスに定めて向かっていくが、クロスは悠然と銃を構えた。 クロスの持つ、もう一つの対アクマ武器 ―― 弾は見事全弾ティキに命中した。そのあまりの強さにミナは息をするのも忘れて見惚れていた。 「(これだけの実力のある人があの時にいたら…)」 誰も、傷つかなかったのかな 思わずもれてしまう“たられば”に、ブンブンとその考えを消し去るように頭を振る。悪い癖だ、とミナは自分を戒める。 他人を頼るな、自分で戦え もう一度誓うかのように、そっと馬酔木を撫でつけた。 「、ッ、」 スッと震える指先をティキへ向ける。大丈夫、死神としての記憶も戻った。霊力も、完璧に戻った。 いける、とミナは確信して口を開いた。 「破道の四 白雷」 指先から強い光りが一直線にティキへと向かう。そして、一瞬でティキの右胸に貫通した。 驚くティキにミナは不敵に笑ってみせる。ここにいるのが気づかれるのも時間の問題だ、とミナは次の攻撃の準備をする。 だけどティキが動く前にクロスが攻撃したため、ミナの心配も杞憂に終わった。 そのまま傍観していると、この部屋の崩壊が始まってしまった。 「(…さて、どうしようかな、)」 なんて、考えてる場合じゃないよね ミナは覚悟を決めて、斬魄刀を握る。 「卍解 すると刀身がみるみるうちに真っ赤に染まり、柄は瞬く間に白へと変化する。そしてその真っ赤な刀身で脚を斬り、トン、と小指で柄を叩くと斬りつけた傷は塞がり、ミナはさっきまでピクリともしなかったはずの足を動かしてみせる。 「…よし、」 さあ、行こう 立ち上がったミナと共に、アレンの叫び声が舟の中に児玉した。 |