05タンッと足が地面を蹴る音が響く。だがミナは地面を歩いてる訳ではない、空中を走っているのだ。 いつからはもう定かではないが、ある日突然ミナはやり方を思い出したかのようにごく自然に空中を歩いてみせた。 その時の皆の驚きようと言ったらもう……鴉に在るまじき爆笑だった。 「それより遠いな……間に合わなくて帰ってきましたーなんて長官に顔向け出来ないよ」 ねぇ炎珠、とミナが腰にある刀に声を掛けるとまるで呼応するようにカタンと動く。 しかし何かの拍子にスカッと足を踏み違え、そのままヒュゥウと重力に従って落ちていく。 「ちょ、嘘でしょぉおおおお!!!?」 叫び声は下にいるエクソシスト達、もといリナリーや神田達にも聞こえてきた。なんだ?と上を見上げるも次の瞬間、リナリーを引きずりこむようにペンタクルが浮かび上がる。 そんなリナリーを引きとめようと手を伸ばすアレン、神田、クロウリー、ラビ、チャオジーまでもがペンタクルの中へ。 そのペンタクルが閉じかけた瞬間、上から降ってきたミナも運悪く引き摺り込まれてしまった。 「……最後のは誰だ?」 ティエドールが呟いた疑問は、誰も答えの知らない事だろう。 『『『どわぁああああああ!!!』』』 「…ぐえ…っ」 「ビ…ビックリしたである〜…」 「つっ、潰れ"る"う"ーっ!!」 「ちっ!!」 全くの緊張感もないエクソシスト達。ミナはいたた…と頭を摩りながら起き上がった。 ワイワイ騒いでいるエクソシスト達を見て間に合ったのかな、これ。と苦笑してしまう。 「…で、テメェは誰だ」 「へ?」 突然振られた話に思わず変な声が出てしまう。あ、自己紹介しないと、と口を開こうとするとレロと呼ばれた傘がいきなり話し出した。 《舟は先程長年の役目を終えて停止しましタ。 ご苦労様です、レロ。 出航です、エクソシスト諸君! お前達はこれよりこの舟と共に黄泉へと渡航いたしまぁース!》 ドンっ!と激しい音と共に周りの街が崩壊してきた。これが所謂"停止"なのか。 《危ないですヨv 「は!?」 「どういうつもりだ…っ!」 「 《この舟はまもなく次元の狭間に吸収されて消滅しまス。 お前達の科学レベルで分かり易く言うト……、 あと3時間。それがお前達がこの世界に存在してられる時間でス! 可愛いお嬢さん…いい仲間を持ちましたネェ。 こんなにいっぱい来てくれテ…、みんながキミと一緒に逝ってくれるかラ淋しくありませんネ!》 「伯爵…っ!」 嫌味たっぷりの言葉にリナリーは睨みを利かせる。 あと3時間。その台詞がミナの頭から離れない。何故だろう、強く死にたくないと思うのは。 《大丈夫…。 誰も悲しい思いをしないよう、キミのいなくなった世界の者達の涙も止めてあげますからネ》 なんて自分勝手な奴だ ミナは久しぶりの苛立ちに思わず舌打ちをしてしまうが、崩壊していく建物のおかげで誰にも聞こえていなかったようだ。 ここではい自己紹介!なんて流れになるわけもなく、かと言ってここに自分がいても恐らく力にはなれないだろうと早々に見切りをつけたミナは誰にも気づかれないようにソッとこの場から離れた。 それに前に長官から聞いていた人体実験の話に神田、マリ、それからリナリーという名前が挙がっていた。 恐らくあのリナリーと呼ばれた女は一緒だと予測したミナは今会うのは得策ではないとも思い、正式な挨拶はまた別にあるのだし今はいいかと諦めたのである。 「……これ、私生きて帰れるかな…」 たはは、と呆れたような笑いが込み上げてくる。 「アホ、まだ負けてへんやろうが。ンな腑抜けは五番隊にいらんわ。勝敗は諦めたそん時にあんねん、まだ俺らは諦めてんやろ。 ミナも自分に自信持て、お前は強くなっとる。俺が保証したるわ」 「だーいじょうぶッスよ!アタシがついてますから!」 「なんじゃ、いつの間に瞬歩がこんなに速くなったんじゃ!あの白夜坊より速いぞ!!」 痛い、頭が割れそう。 たまに来るこの痛みに未だ慣れないミナ。頭を抱えて蹲りたい衝動があるが、こんな崩壊していく中でそんな事が出来る筈もなく、止めていた足をなんとか一歩前へ進める。 「……貴方は、誰なの…っ!」 教えてよ、誰か。 弱気になってしまったミナだが、さっき頭に浮かんだ数人の言葉を思い出し、また目に光りが宿る。 そうだ、帰れるのかなじゃない。帰るんだ。 だって長官にも約束してきたでしょう?それにハワード達にも行ってきますと言って出てきた。ならただいまも言わなくては。 しゃんと背筋を伸ばして一気に駆ける。何故か、こんなピンチを何処かで味わった事がある。 一体、どこで。 「っ、それよりも……さっさとここから別の所に行かないと もうどれくらい走り続けただろうか、息の切れ始めたそれに少し焦っていると目の前に扉がいきなり現れた。 アンティーク調のその扉はここにあるには不自然すぎる。だがこれが敵の差し向けた罠だったとしたら。 ――ミナには考えてる時間などなかった。 扉の取っ手を掴み、勢いよく開ける。中へ入ったと同時に後ろが崩壊していった光景にゾッとし、突き進んだ。 |