▼ 02
こふっちゃんに招き入れてもらい、ひさびさにこふっちゃんのお社の中へ。うわあ…どこも変わってない。
「にしてもほんと久しぶりだな、李卯!」
『んん、大黒も男らしくなったねえ』
「えっ、オレはオレは!?」
『夜トは…変わらないねえ』
「え…!?」
『あ、でも今はジャージなんだ?似合ってるよ』
ちょん、と裾を引っ張ると夜トはうおおおん!と泣いてしまった。ほら、やっぱり変わらない。
「で、そのガキは何なんだよ。つかその女は人間だろ?」
「ちょっ…人に向かって指さすの止めてもらえます!?」
「やめとけひより」
「な、何で…」
「いーから!」
陽弥の言葉に反応したのは人間の女の子。今夜トが止めてなかったらきっと陽弥はキレてたね。
『陽弥、これ美味しいよ』
「………んまい」
『ね、ほらこっちも』
そんな陽弥を宥めるのはいつも私。まあ好きでやってるからいいんだけどね。
『で、夜ト。その二人は?』
「ああ、こっちは雪音、オレの神器だ。名は雪(ゆき)、器は雪(せつ)。んで、こいつは壱岐ひより。一言で言えば…半妖だ」
『おお、雪音君は夜トの神器なんだ。いい子?』
「いーや!こいつずっとオレのこと刺しやがるんだよ!」
そう言って首の裏側をさする夜トに、私と陽弥は目を丸くさせた。どうして、どうして。
『…………そっか、大変だね』
「……おう」
だけど、聞かない。きっと夜トには何か考えがあるんだと思うから。
夜トも私が何も聞いてこないことを分かってたんだろう、ふっと笑みを零した。
『…で、君は妖なんだ?』
「は、半分!半分だけですから!」
『へえ…何で?』
「いや…夜トを助けようとしたらこんな事に…」
『ふうん…なら、夜トと縁を切れば戻るんじゃない?』
何てことない、とポンと浮かんだそれを伝えると、壱岐さんはどこか切羽詰まったような顔をした。
……ああ、彼女自覚してないけど…夜トのこと、
そこまで想像して、ぷるりと頭を振る。やめておこう、そんな想像したところでどうにもならないんだし。
「でさでさあっ、りいちゃんはどうしてあたしのとこに来たの?」
『あ、忘れてた。あの風穴、こふっちゃんが開けたのかなって気になって』
「えへへっ、そうだよ〜!」
「やっぱりか…」
『何でまた風穴なんか…』
するとこふっちゃんと大黒が二人して夜トを見た。夜トはうっと気まずそうに顔を背ける。
うん?と首を傾げた私にこふっちゃんが教えてくれた。
「びしゃあが夜トちゃんを見つけちゃったんだよー!」
『…ああ、毘沙門が』
「そう!ね、あたし偉い?」
「あんな風穴開けといて偉いわけねぇだろ」
「くォら陽弥!テメーうちのカミさんにケチつける気かよ!?」
「つか大黒も止めろよな!おかげで李卯は働きっぱなしなんだよ!」
『こーら、陽弥。それはいいでしょ』
ポコンと良い音が響く。陽弥は叩かれた患部をさすりながら大人しくなった。
さて、と私は残りのお茶を飲み干して立ち上がる。それに続いて陽弥も。
「あれっ、もう帰っちゃうの?」
『ん。お茶御馳走様、こふっちゃん』
「いーようっ!また遊びに来てねえ〜」
『ふふ、ありがと。夜トもばいばい。雪音君と、壱岐さんも』
「えっ、あ、さよなら…」
「さささ、さようならっ!」
雪音君と壱岐さんは戸惑いがちに返事をしてくれた。夜トはぶっすーとした顔で私を見上げる。…それ不細工だよ、夜ト。
『やーと、またね』
「…もう消えないか?」
『ん、消えない。何ならまた私のお社においで』
「ん…、」
『それから、』
夜トの顔までしゃがみ、目線を合わせる。近くなったその距離に、陽弥がなんか言ってる気がするけど無視無視。
『あの雪音って子、早く何とかしないと夜トが死んじゃうよ。禊でもするなり、殺すなり…』
「もし禊やるってんなら俺を呼べ」
『…陽弥、』
「禍津神、お前は李卯の大事な奴の一人。死なせてたまるかよ」
「…ありがとな、李卯、陽弥」
些かすっきりとなった夜トの顔に満足して、私と陽弥は帰った。
『……あれは相当ひどい』
「ああ、それに加えて毘沙門天だ」
『…あの様子じゃ夜トは雪音君を切るつもりはない。だとすれば…』
「ハァ…李卯と同じこと考えてんのかもな」
『それしかないよ』
茜色の空を見上げ、目を閉じる。
思い浮かぶのは夜トのヤスミの広がり方。あれは相当だった。いったいどれだけ雪音君は夜トを刺したのか…。
『…毘沙門には悪いけど、夜トは殺させない』
「……はいはい、分かってんよ」
『ありがと…陽弥』
「それが俺だ」
ふっと笑って目を開けると、もう茜色はなかった。
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