Side of You | ナノ

 02



こふっちゃんに招き入れてもらい、ひさびさにこふっちゃんのお社の中へ。うわあ…どこも変わってない。



「にしてもほんと久しぶりだな、李卯!」

『んん、大黒も男らしくなったねえ』

「えっ、オレはオレは!?」

『夜トは…変わらないねえ』

「え…!?」

『あ、でも今はジャージなんだ?似合ってるよ』



ちょん、と裾を引っ張ると夜トはうおおおん!と泣いてしまった。ほら、やっぱり変わらない。



「で、そのガキは何なんだよ。つかその女は人間だろ?」

「ちょっ…人に向かって指さすの止めてもらえます!?」

「やめとけひより」

「な、何で…」

「いーから!」



陽弥の言葉に反応したのは人間の女の子。今夜トが止めてなかったらきっと陽弥はキレてたね。



『陽弥、これ美味しいよ』

「………んまい」

『ね、ほらこっちも』



そんな陽弥を宥めるのはいつも私。まあ好きでやってるからいいんだけどね。



『で、夜ト。その二人は?』

「ああ、こっちは雪音、オレの神器だ。名は雪(ゆき)、器は雪(せつ)。んで、こいつは壱岐ひより。一言で言えば…半妖だ」

『おお、雪音君は夜トの神器なんだ。いい子?』

「いーや!こいつずっとオレのこと刺しやがるんだよ!」



そう言って首の裏側をさする夜トに、私と陽弥は目を丸くさせた。どうして、どうして。



『…………そっか、大変だね』

「……おう」



だけど、聞かない。きっと夜トには何か考えがあるんだと思うから。

夜トも私が何も聞いてこないことを分かってたんだろう、ふっと笑みを零した。



『…で、君は妖なんだ?』

「は、半分!半分だけですから!」

『へえ…何で?』

「いや…夜トを助けようとしたらこんな事に…」

『ふうん…なら、夜トと縁を切れば戻るんじゃない?』



何てことない、とポンと浮かんだそれを伝えると、壱岐さんはどこか切羽詰まったような顔をした。

……ああ、彼女自覚してないけど…夜トのこと、


そこまで想像して、ぷるりと頭を振る。やめておこう、そんな想像したところでどうにもならないんだし。



「でさでさあっ、りいちゃんはどうしてあたしのとこに来たの?」

『あ、忘れてた。あの風穴、こふっちゃんが開けたのかなって気になって』

「えへへっ、そうだよ〜!」

「やっぱりか…」

『何でまた風穴なんか…』



するとこふっちゃんと大黒が二人して夜トを見た。夜トはうっと気まずそうに顔を背ける。

うん?と首を傾げた私にこふっちゃんが教えてくれた。



「びしゃあが夜トちゃんを見つけちゃったんだよー!」

『…ああ、毘沙門が』

「そう!ね、あたし偉い?」

「あんな風穴開けといて偉いわけねぇだろ」

「くォら陽弥!テメーうちのカミさんにケチつける気かよ!?」

「つか大黒も止めろよな!おかげで李卯は働きっぱなしなんだよ!」

『こーら、陽弥。それはいいでしょ』



ポコンと良い音が響く。陽弥は叩かれた患部をさすりながら大人しくなった。

さて、と私は残りのお茶を飲み干して立ち上がる。それに続いて陽弥も。



「あれっ、もう帰っちゃうの?」

『ん。お茶御馳走様、こふっちゃん』

「いーようっ!また遊びに来てねえ〜」

『ふふ、ありがと。夜トもばいばい。雪音君と、壱岐さんも』

「えっ、あ、さよなら…」

「さささ、さようならっ!」



雪音君と壱岐さんは戸惑いがちに返事をしてくれた。夜トはぶっすーとした顔で私を見上げる。…それ不細工だよ、夜ト。



『やーと、またね』

「…もう消えないか?」

『ん、消えない。何ならまた私のお社においで』

「ん…、」

『それから、』



夜トの顔までしゃがみ、目線を合わせる。近くなったその距離に、陽弥がなんか言ってる気がするけど無視無視。



『あの雪音って子、早く何とかしないと夜トが死んじゃうよ。禊でもするなり、殺すなり…』

「もし禊やるってんなら俺を呼べ」

『…陽弥、』

「禍津神、お前は李卯の大事な奴の一人。死なせてたまるかよ」

「…ありがとな、李卯、陽弥」



些かすっきりとなった夜トの顔に満足して、私と陽弥は帰った。



『……あれは相当ひどい』

「ああ、それに加えて毘沙門天だ」

『…あの様子じゃ夜トは雪音君を切るつもりはない。だとすれば…』

「ハァ…李卯と同じこと考えてんのかもな」

『それしかないよ』



茜色の空を見上げ、目を閉じる。


思い浮かぶのは夜トのヤスミの広がり方。あれは相当だった。いったいどれだけ雪音君は夜トを刺したのか…。



『…毘沙門には悪いけど、夜トは殺させない』

「……はいはい、分かってんよ」

『ありがと…陽弥』

「それが俺だ」



ふっと笑って目を開けると、もう茜色はなかった。









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