▼ 04
陽弥の強い希望で李卯は陽弥を神議に残させたが、さすがに今からは誤魔化せないと陽弥を先に帰らせた。
ここ数年、陽弥とこうして離れる事がなかった李卯は、つい気を張ってしまう。
「いつまで閉じ込めとくつもりじゃ」
我慢ならなくなったのか、大国主が仁王立ちで出入り口付近にいる者に尋ねる。しかし、
「どうしてもとおっしゃるならばこちらからどうぞ。
ですが、その場合七福神様は術師と通じ、高天原を欺く
叛意あり――と判ずるものとします」
「きっさま…!」
更に怒る大国主を宥める毘沙門天。と、そこへ恵比寿邸への家宅捜索の結果を報告しに来た者が。
恵比寿と仲が良かった、と何とも文句を言いたい理由で七福神と一緒に閉じ込められた李卯は、今まで無気力だった表情から一変して緊迫した表情を浮かべた。
「大量の面を発見!傀儡となった妖も相当数飼っていたようです!」
「バ、バカな!」
「さらに神器らを調べてみたところ、過半数が野良でした。しかし、肝心の恵比寿様と道司・巌弥が不在で確保とはならず、手配書を出すことになりました!」
耳を塞ぎたかった
李卯は膝を抱え込み、額をつけて誰にも顔を見られないようにした。
『(妖に名をつけた反動で寝ていたんじゃなかったの…?そんな体で一体何処へ…)』
そう言えば、結局夜トも居なかったな。李卯は瞳を閉じてあのおちゃらけた人物を思い出した。
雪音やひよりを置いて何処へ行ったのか、誰も知らないみたいだ。
『(…何か引っかかる……、あの夜トが、こんなに長く雪音君達から離れた事あった?離れる理由は?)』
そんなの、一つしかない
気づいてしまったら、もうそれ以外考えられなくなってしまった。いや、きっとこの答えに間違いはない。
だとすると、一刻も早くここから出なければ。
『(だけど陽はさっき帰してしまった…。くそっ、もっと早く気づいてれば…!)』
ぎゅっと目を閉じ、固く強張らせていた体の力を抜く。そして静かに立ち上がった。
今の今まで黙っていた李卯が行動した事に、七福神だけでなく天に仕える神器達も目を向ける。
「李卯…?」
「なんじゃ、女ァ」
毘沙門天や大国主が声を掛けるが、それを一切無視して小さく口を開いた。
『――白虎』
呼んだ瞬間、キン…と空気が震える。やがて李卯の目の前に現れたのは、白銀の虎――白虎。
普段は人型を象っているが、本来の姿は此方だ。
『来てくれてありがとう、白虎』
《別に、李卯の為だし》
『ふふ、ありがとう…さて、行こうか』
李卯が白虎の背に跨ると、呆然としていた天の神器がハッとなり急いで止めに入る。
「何処から入り込んで…!李卯様、ここからお出でになるのであれば、李卯様も術師と、」
『
恵比寿とはまだ話したい事が山程あるの。
それからずっと思ってたんだけど…、お前ごときが神を脅すなど、身の程を知れ』
冷たい殺気を浴びせ、相手が一瞬怯んだ隙に李卯と白虎はその場から消えた。来た時と同様、空気を震わせて。
「あの女言うのォ!」
「ハァ…李卯の奴……」
そんな事を言われていたなんて知らず、
李卯は一目散に黄泉へ向かった。
そこに、夜トと恵比寿が居ない事を願って。
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