▼ 05
兆麻が話し終え、部屋には静けさが舞い込んでくる。いや、夜トのお茶を啜る音が響いていた。
『そっか…』
「けどヤスミなんて見間違えるかァ?ねーだろ普通はよ」
「だが実際誰も刺していなかった…」
目に手を置いた兆麻は前よりかは痩せている。
きっとあの陸巴とか言うやつが何かしたんだろう、それか毘沙門に野良から聞いた事を伝えたか――…。どちらにせよ今毘沙門の側に兆麻がいないのはマズイ。
「で、何でうちに来たんだよ?」
『まあ兆麻は宿無しだからいいとして、こふっちゃん達は?』
「え〜?りいちゃんに会いたかったの〜っ!」
「俺も俺もー!りいちゃんに会いたかったの〜!」
「禍津神キメェ」
「ンだと陽弥コラァ!表出ろ!! 雪音、これは戦争だぜ!!」
『はいはい、二人とも大人しくしようねー』
今にも暴れ出しそうな二人を落ち着かせる。チラッと時計を見るともう22時を回っていた。
『壱岐さんはまだ中学生でしょ?早く帰らないと危ないよ?』
「あ、大丈夫です!体は家にありますから!」
『そういう問題じゃないんだけどな…』
必死に言い訳をする壱岐さんに内心苦笑してしまう。それだけここに縁を繋ぎたいのか、と嫌な方向に考えてしまうのは私の悪い癖だ。
だめだめ、今は自分の事なんてどうでもいいんだから。それよりも兆麻の事をどうにかしないと大変な事になる。
『……介入するのは嫌だったんだけど…こうなったらヤケクソだね、陽弥』
「お、珍しいな。やる気か?」
『ここで知らんぷりも出来ないしね。…兆麻、』
「はい」
いい?陸巴と呼ばれる男には気をつけて
真剣な私の声色に兆麻は目を丸くしてコクリと頷いた。あれ、取り乱したりとかはしないのかな。兆麻がすぐに頷いてくれた中、ピクリと一瞬だけ反応を示したのは、
『……夜ト?』
「お、おお?何だよ」
『…はあ、こっち来て』
「え、えええ!!? ちょ、まっ…」
「夜ト!?」
『陽弥後よろしくねー』
「おー任せとけー」
ズルズルと夜トの首根っこを掴み居間から出て行く。慌てる夜トなんか無視だ無視。そうして着いた先は私の部屋。扉を開けてポーイと夜トを放り投げるとおうふっ!なんて声を上げて顔からスライディングしていった。
タンッと扉を閉めて夜トの近くに座る。夜トは鼻あたりがヒリヒリするのかさすっている。ごめんね、悪気はなかったの。
『…で、夜トは陸巴に会ったの?』
「な、何の事カナー?僕わかんなあーい」
『そっかそっかあ、夜トは知らなかったのかー』
「そう!あんなギョロ目野郎なんて俺知ーらない!」
『……誰がギョロ目なんて言った?』
「ハッ!!! ハメやがったな李卯!!」
『いや、今のは自爆でしょ!まさかカマかける前に自分からバラすなんて思わなかったよ、さすが夜ト!』
「うるせぇ!!」
うわぁああん!なんて大声で泣き出した夜トに私はそれに負けず劣らずな声で笑ってしまった。
こんなに気兼ねなく笑ったのなんて何時以来だろうなんて思ってみたり。
『……で、その陸巴なんだけど、』
「何だよ、つーかソイツと関わってんの?李卯」
『え?何で?』
「…いや、アイツ……面付きの妖従えてた」
『面付きって……何で陸巴が!?』
いよいよ本当に怪しくなってきた。何でそんな奴が毘沙門の神器なの?
「危ねえ事に首突っ込むなよ。李卯は昔から何かと巻き込まれんだからな」
『…夜トこそ、昔から誤解されまくりじゃん』
「……いーんだよ、俺は」
『よくないし、』
「バーカ」
ムニッと私の鼻を摘まんできた夜ト。昔からこうだ、私が弱ってたり不安になってたりしたらよくこうして鼻を摘まんでくる。
『…やめろばか』
「はいざんねーん、やめまっせーん!」
『あぁもう!離せニート!』
「あっ!李卯今言っちゃいけない事言いましたー!はいもう離しませーん!!」
『うざっ!果てし無くウザいよ夜ト!!』
いつの間にか口調が昔みたいに砕けた感じになっていた。これも全部夜トのおかげ。
この後は陽弥が遅い私を心配して部屋まで来たが、この現状(夜トが私の鼻を摘まんで押し倒している)を見て原型が分からなくなるくらいボコボコに夜トを殴ったのはまた別の話。
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