▼ 04
数日後、夜トとこふっちゃんに迷惑をかけたことを謝り、いつものように妖退治をする毎日が続いた。
「で、今日は何の用事?李卯…」
私はまた野良の所へ来ていた。するとまたもや陸巴と呼ばれる神器もいた。
「ふふ、ねぇ李卯。陸巴は毘沙門の代替わりをしようとしてるのよ」
『代替わり…!? 何てことを企んでるの……!』
「くす、言ったでしょう?
不 和 」
キン、と場の空気が一気に冷える。それと同時に野良が目を丸く見開いた。
ぽんと頭に乗せられた手のひらの温もりに目を細め、その名を呼ぶ。
『――陽弥』
「ったく…危ねえ真似すんなよな」
『にはは、ごめんごめん』
「……どうしてその神器がいるの?私と繋がってるの隠してたんじゃなかったの?」
「俺が見抜けねぇとでも思ってんのか?甘い甘い!甘すぎて―――…」
吐きそうだぜ
ギラリと睨みつけてくる陽弥に野良は初めて怯えたような表情を見せた。私はその横に並び、
『野良、夜トや雪音君、壱岐さんに何かしてみなさい。
ぶった斬ってやるから』
最後に野良の横にいる陸巴も睨んでからこの場を去った。
「なあ、あの野良の横にいた奴って…」
『毘沙門の神器。どうやら代替わりを企んでるみたいだよ』
「はあ!? 代替わりってなんでまたンな事…」
『分からない。だけどこの時期にそれはヤバイかもしれない。ただでさえ夜トとの事もあるのに………いや、ちょっと待って、』
お社へ戻る道中でピタリと足を止める。何かがつっかえる。何だ、考えろ。
夜トとの因縁を持つ毘沙門。時期が重なるように代替わりを企む陸巴。
『…夜トに毘沙門を斬らせようとしてる……?』
つい口から出た言葉に陽弥は驚きの声を上げる。だけどもうこれ以外考えられない。
一度そう思ってしまったら先入観が入ってしまってダメだけど、これはそうも言ってられない。
『陽弥』
「ああ、」
『――青龍』
「ここに、」
四神の一人である青龍を呼び出す。スッと頭(こうべ)を垂れる姿を見下ろしながら口を開いた。
『近々神同士の争いが起きる。青龍には夜トの守護をしてもらいたいの』
「貴女様の御命令とあらば私は喜んで聞き入れましょう」
故に今の言葉だと拒否する、と言葉の裏に隠している青龍に私も一つ溜息を零した。
『我が名を持って青龍に命ずる。夜ト神をあらゆるものから守れ。それが神であろうと妖であろうと人であろうと。何者からも守れ』
「――御意」
薄い翠の瞳を鈍く光らせて、青龍は李卯の手の甲にそっと唇を落とす。
そして、私に聞こえる程度に命令を受け入れた青龍はすぐに消えた。きっと夜トの元へ行ったのだろう、相変わらず仕事の早いこって。
守れ、と言っても表沙汰に立って守れと言う事ではない。あくまでも陰からだ。
『……少し時化てきたね』
「ああ…いけるか?」
『ふふ、誰に聞いてんの』
「それもそうだ」
陽器、と呼ぶとキィンと陽弥は光り、私の手の中に収まった。湧いて来た妖達を見据え、私は高く飛び上がったのだった。
「あれ、兆麻じゃねーか」
『あ、ほんとだ。ここにいるなんて珍しいねえ……というか何でみんなして私のお社にいるの?』
帰ってきた私を出迎えたのは毘沙門の神器である兆麻、それからこふっちゃんと大黒に夜トと雪音君に壱岐さん。
勢揃いしているメンバーに苦笑するしかない。
「李卯はまず手ぇ洗って来いよー」
『はーい』
まあ考えたって仕方ないよね。私は早々に考えることを放棄して陽弥に言われた通り洗面所へ向かった。
ジャージャーと手を洗って居間へ行くと、さっきと変わらない光景にプラスして陽弥が早速お茶を配っている。うん、出来た神器だ!
『それにしてもほんと珍しいよねえ。夜トとかならまだ分かるけど兆麻まで…』
「何かあったのか?」
二人して問いかけたからか、兆麻は口をつぐんだ。代わりにこふっちゃんが口火を切る。
「あのねえ、毘沙門に追放されちゃったんだってぇ」
『追放!? え、兆麻は毘沙門の道標だよね!!?』
「はい…けれど僕がヴィーナに境界を使ったから、名を放たれたなかっただけでも幸いです」
「主に境界?本格的に何があったんだよ」
まさか陸巴が動いたか?と無意識に髪をくしゃりと崩す。そんな私を夜トが見ていただなんて知らずに、ただ兆麻の話に耳を傾けていた。
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