雪が降り始めた。
優衣は手のひらで雪を受け止め、じんわりと溶けていく様をただ黙って見届けた。
先程まではいたる所で騒音が鳴り響いていたのに、白銀の王のお陰で生徒は無事避難出来たようだ。
――今現在、ここ、葦中学園は吠舞羅とセプター4の争いの場と化していた。しかし、それも着々と終わりに近づき、今は両クランの王しかいない。いや、それともう二人――
白銀の王、アドルフ・K・ヴァイスマンと
無色の王、狐煙がいる
「ま、無色の王は今はアドルフの中なんだっけ……ならなおのこと、急がないと」
サク、と雪を踏みしめ、優衣は空に浮かぶダモクレスの剣を見上げて一目散に走った。
着いたそこは、今まさに周防がヴァイスマンを自身の炎で殺そうとしているところだった。その近くでは宗像が止めようと声を荒げている。
――考えるまでもなかった
「なっ……優衣…!?」
「優衣、お前何でここに…」
ヴァイスマンと周防の戸惑う声すら無視して、優衣は二人の間に体を潜り込ませる。そして、一気に力を解放した。
空に浮かぶのは、赤、青、白銀、無色のダモクレスの剣だけだったはずなのに、
更にもう一つ、今や伝説と呼んでも可笑しくない、泡沫のダモクレスの剣が浮かんでいた。
淡い水色のサンクトゥムが広がる。両腕を広げて、優衣はそっと願った。
「炎よ、そして悪しき王、無色よ、消えて」
向かってきていた周防の炎は跡形も無く消え、そして空に浮かぶ無色の王のダモクレスの剣も、消えた。
「どうして…ここに、君が…」
ヴァイスマンの声は微かに震えていた。信じられない、とその目が語っている。
「私が、アディを死なせると思う?」
ふふ、と柔らかく笑うと、ヴァイスマンも困ったように笑った。
「……おい」
すると、どこか怒った声色で周防が優衣を呼んだ。優衣はヴァイスマンから向き直り、久しぶりに周防と対面する。
…どこも、変わってなかった。
そう、優衣を見る瞳も、何も。
「…お久しぶりです、周防さん」
ピクリ、と周防の方が揺れる。一気に不機嫌オーラが爆発した周防に、ヒッ!と優衣も怯える。
「…勝手にどこに行ってやがった。あと何だ、その呼び方。気色悪いからやめろ」
「き、気色悪いって酷い!私は、ただ…その、もう…お側には居れないので…」
「誰がそれを許した」
「…ッ……」
「お前にも、…あいつらにも、聞きてぇ事は山程ある。帰ったら覚悟しておけ」
「みこ、ッ周防さん!私はもう彼処には、みんなの側には、」
「うるせぇ」
問答無用の言い方に、優衣は押し黙る他なかった。と、そこへヴァイスマンがニコニコとした笑みで優衣へ近づく。
――ドスッ!
「〜〜ッ!? アディ!? いきなり何するの!?」
「ほんと、優衣ってば強情だね。いい加減素直になればいいのに。そりゃあさ、僕には何があったかなんて知らないけど…、頼ってみたら?」
ヴァイスマンの言葉に、優衣は顔を俯けてほんの少し頷いた。それを見たヴァイスマンは満足そうに頬を緩める。
「それじゃあ、帰ろうか」
雪は、やんでいた。