私は、初めてこの世界に来た時と同じ場所に立っていた。ここで土方さんに声を掛けられ、なんやかんやで真選組の女中として働くことになった。
現実···元の世界では1週間過ごしたけど、ここではどのくらい経った?みんな私の事覚えているかな?というかこの世界にまだみんな生きているのだろうか。
でも門に武装警察真選組屯所という看板がかかっているから、生きてはいるのだろう。
にしても、屯所に入れない。
手紙は残しはしたが、無断で元の世界へ戻ってしまったのだ。気まづいたらありゃしない。あと今何時だろ···明け方かな?
朝早いけど、万事屋へ行こう。
私は万事屋へ向けて足を運ぶ。かぶき町に入ると人は疎らでよろよろに歩いている人達がチラホラいる。この人たちをみると、明け方なのは正解らしい。
こんなに早く万事屋にきてみんな迷惑だろうなとは思いながらも私は万事屋のインターホンを押す。何度も押すら、けど誰も出てこない。寝てるのかな···。いや、そうか。だってたまたま見かけた時計は朝の5時だったもんな。
「おはようございます」
「え···あ、おはようございます」
緑色の綺麗な髪を三つ編みに結ったミニスカ丈の着物を着た女性に声を掛けられた。
「銀時様達は昨日から依頼にて江戸を離れております。明日帰って来られるようです」
「そ、そうなんですね」
仕事あったんだ。よかった。
「これをどうぞ」
「え···」
「もうすぐ雨が降ります。傘持っておられないようなので」
「···ありがとうございます」
私は差し出された傘を受け取り、たまと名乗る女性に頭を下げて来た道を戻る。
戻る最中、たまさんが言っていた通り、雨がしとしとと降り始める。どうやって、屯所に戻ろう。戻ってきたのに、なかなか勇気が出ない私が馬鹿みたい。
屯所に戻っても私の居場所、本当にあるのかな···。荷物は全て屯所に置いてきたけど、捨てられてないかな!?大丈夫だよね!?考えれば考えるほど不安になってくる。
私は、川沿いの土手に蹲ってじっとしていた。屯所に帰ったら土方さんの説教コースかな?今回は何時間だろ?
あぁ、ヤダヤダ!憂鬱になってきた!
「おい、そこの町人B、こんな朝早くになにやってんでィ···」
蹲って暫くした頃、私の頭上から聞こえた声。ずっとずっと聞きたかった人の声。私がこの世界で生きると決めたきっかけの人。
「···沖田さん」
「今まで···どこに行ってたんでィ···クソ女」
私を町人Bと呼ぶのは、頭上で眉間に皺を寄せ苦しそうに私を見下ろす男。
沖田総悟···
「···った」
「は?」
「沖田さんに···会いたかった」
泣かないって決めてた···。
笑って「ただいま」って言うつもりだった。でも目の前にいる沖田さんを見たら自然と涙が出てしまっていた。
私にとっては1週間···。1週間でもこんなに胸が苦しいのに、この人は何日···何週間···何ヶ月待ったんだろう。
「てめぇが勝手に元の世界に戻ったんだろィ···。2ヶ月もいなかったクセになに言ってやがんでぃ」
「いだっ!」
2ヶ月···
「なる···」
隣にしゃがみ込んだ沖田さんと目が合う。
「沖田さん···私、沖田さんのこと好きです」
「···」
「自分が生まれた世界、捨ててまでも沖田さんが好きなんです」
「···っ、知ってりゃ」
え、知って···
「おめぇがあの時、抱き着いて来た時に確信した」
あの抱き着いて···!あぁ!伊東さん達の時だ!私が沖田さんへの恋心を自覚した時だ。
「分かり易いんでさァ。俺と対峙した時、こうやって顔赤くすんだろィ?そういう態度みると、俺に気があるのかなって薄々な···」
「う···」
「なる···姉上が亡くなった時、俺に言ったよな、ずっと俺の味方だって···」
「言いました」
「なら···ずっと俺の傍にいろ。もう勝手にどっか行くんじゃねェ」
ずっと傍に···それってプロポーズみたいなモンじゃ···でもずっとこの人の傍に居られるのなら私頑張れる気がする。
「うん、ずっと傍にいます」
お母さん、きっと沖田さんは不器用で言葉足らずなところがあるけど、私の事大切にしてくれそうだよ。なんだかんだ、私のこと今まで助けてくれたのはこの人だったんだもん。それにずっと優しかった。
沖田さんの綺麗な少し骨ばった豆が潰れた硬い指先が私の頬に触れる。大事なモノを触るように···
目が合う、え、近い···
「なる···」
「はい···」
「好きでさァ···」
沖田さんとの3回目のキスは、初めてした時のキスよりも丁寧で優しいキスだった。
ただいま大好きな人
(沖田さん、嫌いって言ってごめんなさい。大好きです)(知ってる)