3.少女が捨てた現実
「どういうことなの?」


大輝兄ちゃんが私の実のお兄ちゃんなら、おじいちゃんもお母さんも···お父さんも知ってたってことだよね?


え?でも大輝兄ちゃんはおじさん達の所の子どもじゃ?


「隠しててごめんなさい。大輝がね、おじさん達のところの養子にいくってきかなくて。おじさん達、子どもがね出来なくてね。それで大輝がいくって」


お母さんの説明はこうだ。
おじ夫婦には子どもはおらず、それを知った大輝兄ちゃんがおじ夫婦の息子になると。でもおじ夫婦は必死に止めたらしい。大輝兄ちゃんが本家の長男、家督を継ぐ者だったから。それでも大輝兄ちゃんは家督やら権利やらを捨ててでも···めげなかった。みんなの反対を押し切った。


私は大輝兄ちゃんをみる。



「···なる、ごめん。俺逃げてたんだ。お前が生まれてから···小さいながら剣術をみて喜ぶお前の才能が怖かった。俺じゃ役不足なんだって、家督を継ぐのはお前がいいって子どもながら思った」

「·····」

「今更だが、俺が家督を継ぐ。お前が背負い込むべきだった全て全部」

「ふ、ふざけないでよ!みんなして!自分のことばっか。私の気持ち一切聞かずに!」


お父さんの独りよがりも、大輝兄ちゃんも···私のため?私がいつそんなこと望んだっていうわけ?そんなの嘘だ!自分が傷つきたくなかっただけじゃないか!


「でも···もういいよ。私たちは不器用なだけだったんだよ。戻ろ···ただの家族に···。家の事も全てもういい」


こんな責任のなすり合いなんてやってる場合じゃない。確かに何も知らなかった私に全て背負わすような考えを生んだ大輝兄ちゃんも、それを止めなかった大人たちももういい。結局はこの家系の据が悪いんだ。


大輝兄ちゃんが私の大嫌いなこの家系の家督を継いでくれるなら万々歳だ。まぁ、それに対して私が親戚から小言やら嫌がらせを受けなくなるとは言えないだろうけど。


私はいち、剣道家として人生を終えるのだ。


あ、そうか。
家にずっとあったお揃いの茶碗、一つだけずっと使われてないのがあったのは、大輝兄ちゃんのだったんだ。私が物心着く前に出ていったから、ほぼ記憶がなかったのも頷ける。


「なる、ごめんね」


私を抱き締めるお母さん。
お父さんと大輝兄ちゃんは謝りながら私を抱きしめてくれた。色々あったけど、少しずつ普通の家族になれたらいいな。




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ーーーーーー



「それで仲直りしたと?」

「そー。正直に物は言うもんだね」

「男の人の独りよがりってほんと迷惑しかないね。あと、仲直りしたとしても、なるの中のトラウマは消えないよ」

「美咲、辛辣だね。あとそれは言わないで、わかってるから」


私はあの後、ずっと心配をかけていた幼馴染みの部屋に来ていた。


「なるが消えていた間、異世界それも銀魂の世界とは···ほんとに言ってんの?」

「うん、だってこの話私しってる」


私は銀魂単行本19巻を読んでいる。私が元の世界に戻るきっかけを作った事件。


···沖田さんカッコよすぎない?


「はぁ、沖田さんかっこいい」

「沖田さん?え?沖田総悟好きなの?」

「は!?す、好きじゃないし!」


美咲から突然言われた言葉に動揺を隠せない。


「キャラとして好きか聞いたんだけど···その様子だと男の人として好きみたいな反応だね」


は、嵌められた。いや、私が焦って動揺したからなんだけど。


「好きだけど、ダメだよ。諦めなきゃ。漫画の世界の人好きになるなんて···」

「なるが行った世界ってさ、銀魂だけどもう1つの銀魂の世界じゃない?パラレルワールドってやつ」

「え?」

「本来の世界は今なるが読んでいる漫画の世界。んでなるが行った世界は原作と時は一緒だけど違う世界。だから、なるが突然現れても本来の世界の話が変わることはない。話の流れは一緒だろうけど。だからさ、なる···隠さなくていいよ」

「·····」

「なるはここじゃなくてトリップした銀魂の世界で生きるべきだよ」

「美咲?」


この幼馴染みはなんということを言うのだ。


「好きなんでしょ?沖田さんのこと···。約束したこと守れてないんでしょ?」

「パラレルワールドだとしても好きになっちゃいけないんだよ」

「好きになっちゃいけない人なんていない。なるはこっちで片付けないといけないことは終わったでしょ?なるはみんなの我儘でずっと苦しんでたんだよ?今度はなるが我儘言ってもいいと思うよ」


美咲は私にそう言うと、笑顔でこう言った。


「ずっと苦しそうななるを見てきた。だからなるには笑顔でいて欲しい。私たちじゃなくて大好きな人達と···。なるがどこの世界に行っても、私はなるの味方だし、ずっとずっと大好きだよ」

「うん、私も大好きだし、ずっと美咲の味方だよ。だから美咲も笑って」


ずっとずっと、辛い時、傍にいてくれて、一緒に泣いてくれた大切な幼馴染み。


「ありがとう」


私は美咲を抱き締めて美咲の元を離れた。


美咲の家を出た時、時刻は夕暮れ時。空はあの時と同じ空。もしかしたら、また戻れるかもしれない。



「お母さん!」

「なる、あなた異世界で好きな人みつけた?」

「え!?」

「簪、ずっと付けてるね」


私は、こっちに戻ってくる時に一緒に持ち帰ってきたものがある。沖田さんが買ってくれた簪。


「こ、これは、私がお金無くて仕方なく買ってもらった物で···」

「簪ってね、男の人から女の人に贈る時って、江戸時代だと意味があるのよ」

「い、意味?」


あれはただの気まぐれであって···。


「一途にお慕いしておりますだとか、告白とか、そういう意味があるのよ。プロポーズだと櫛が一般的ね」

「···っ!」


あの時、銀ちゃんがニヤニヤしていた意味がわかった。


私は急に恥ずかしくなって俯く。



「あなたが、この世界を捨てていくことを私は止めないわ。ずっと苦しんでた。私達はずっとあなたを縛り付けてた。でも異世界でのあなたは、話を聞いてても楽しそう。その簪を買ってくれた人、その時はそういうつもりなくてもきっと、いい人ね。なるのこと護ってくれるわ、ずっと」

「お母さん···」

「みんなには私が言っておくわ」

「うん···」

「なる、幸せになってね」

「お母さん···大好き」

「愛してるわ···」


私は、家を飛び出して、私が落ちた田んぼに来ていた。空はさっきと変わらずトリップした時と同じ空。私は意を決して田んぼに落ちた。



沖田さんに会いたい、その一心で···






少女が捨てた現実
(屯所だ···)

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