2.2年越しの親子喧嘩
私が帰ってきてから2日後。
とうとうおばあちゃんの三回忌が私の家で行われた。親戚一同が集まるその空間は私にとっては地獄だった。

私の家系は、昔から代々続く剣術道場一家。道場の権利は、本家と呼ばれる潮崎の名字を継いだ者。本家の長男のみが継ぐことを許されている権利。私の家はその本家に当たり、私のお父さんが今の潮崎家の家督。そして私がその娘。けど、娘は家督を継ぐことは出来ないらしいが、おじいちゃんがその古き風習を変えた。

私が14歳の頃、師範代をとる前、各家の剣に自信がある者と剣を交えた。私に勝てる者がいれば、本家ではなくとも、潮崎家の家督を継ぐことが出来るという暴挙におじいちゃんが出たのだ。元々、小さい頃から私は剣客の才があったらしく、14歳ながら、私よりも一回り、それ以上の大の大人たちを全員叩きのめしてしまった。それにより、私は女ながら家督を継ぐ権利を与えられた。

男女平等が謳われる現代、誰が家督になっても同じじゃないかとその時私は思ったけど、男尊女卑が当たり前だった私の親族は猛反発。会う度に小言を言われ、嫌がらせもされた。

思春期真っ最中な私は、師範代をとってからは剣の稽古を疎かにしてしまった。それが気に食わなかったのは私のお父さんだった。

道場に呼び出され、稽古を付けてやると言われ、こてんぱにやられた。実の父親が血の繋がった娘にここまでするか?というぐらい。私が立てなくなるまで、木刀が私の身体を襲った。どんなに「痛い」「ごめんなさい」と言ったとしても、お父さんは許してくれなかった。稽古を疎かにしたのは確かに悪いと思った···でも、今思えばあの時の私は殺されててもおかしくなかったと思う。ボロボロにされて、大泣きしている私を助けたのは、お母さんとおじいちゃん。その日から私たち家族はバラバラになった。



私はオレンジジュースを飲みながら、おじいちゃんと喋るお父さんを見る。あの日から久しぶりに会うお父さんは、前と変わっていなかった。私を見る目は冷たかった。けど、お母さんに抱きつき、顔をヘラヘラしているお父さんを見た時は、心底気持ち悪いと思ってしまった。そう、銀ちゃんをゴミのように見る時と同じ目をしていただろう。


「シケたツラしてるな、なる」

「···大輝兄ちゃん」


親戚の中で唯一、普通に私に接してくれる人。


潮崎大輝。


同じ潮崎だけど、大輝兄ちゃんのお父さんは、私のお父さんの弟。同じ名字なら大輝兄ちゃんが家督継いでもよくね?ってなったよね。


「また言われてんのか?」

「うん」

「なるは剣客の才があるって事みんな知ってるはずなのにな···」

「あってもなくても言われてたよ」


ビールを飲み干しながら、大輝兄ちゃんは言う。


「なる、俺はお前に謝らねぇことがある」

「なにそれ、なんかしたっけ?」

「あー、いや、···うん」


謝りたいことがあると言われたが、何も言い出さない大輝兄ちゃん。今までの私は、何とも思わなかっただろうけど、今は違う。何か隠している。大輝兄ちゃんを問い詰めようとした時、私は、お母さんに呼ばれた。


「なーに?」

「なる明日、大事な話があるの。その時にあの事も話しましょ」


明日は家族会議。私が覚悟を決める日。






ーーーーーーー
ーーーー


道場で私は大変息苦しい思いをしている。なんで、なんで、なんでお父さんと道場で2人っきりなの。


「···なる」

「·····」

「刀を握ったらしいな。そして人を斬ったと」

「·····」

「なぜ、握った?」


あぁ、息苦しい。うまく息が出来ない。


「···っ人を···はっ、大切な人たちを護るために決まってんでしょうが!」


私は大声でお父さんに言う。
お父さんの目は相変わらず冷たいまま。そして、何故か目の前に木刀が投げ込まれた。


「握れ。あの日の続きをしようか、なる」


私がずっと悩んでいたことは、2年間にも渡るただの親子喧嘩。親子喧嘩にしちゃ、盛大で迷惑で、私にとってはトラウマで···。でもこれに勝たないと、負けたままだと私は本当に、前には進めないままである。決心して戻ってきたんだ。迷うな···!


「私は···もう迷わない!」


木刀を握り、お父さんに向かう。


木刀同士がぶつかり合う音、床を蹴る音が早朝の道場に響く。お父さんの剣は重たくて受けた木刀から腕に響いてくる。勝てるのかな···ううん、どんなになろうと勝たなきゃ。勝とうとしないと、勝てない!


「私は!」


お父さんに剣を振りながら私は言葉を紡ぐり


「ずっと···!おじいちゃんとお父さんが!」


あぁ···泣きそう···ううん、泣きたくない。


「剣を握っている姿が大好きだった!私が初めて竹刀を持った時に見せた笑顔が好きで···私が刀を握っている間、その笑顔が守れるのならって···!」


視界が涙で歪む。それでも剣を振るうことをやめない。



「私は!!ただ好きで剣を握ってるの!!護りたいモノを護るため剣を握っているの!もう!あの時の私じゃない!!」


一瞬怯んだ隙をついて、私はお父さんに一撃を入れた、



「1本じゃの」

「···おじいちゃん」


一部始終を見ていたのだろう、おじいちゃんが私の1本宣言をした。


「なる、こやつはお前をただ護りたかっただけなのじゃ」

「え?」


護りたかったってなに?憎かったんじゃなくて?


「なるが剣術を嫌いになってくれれば、潮崎家の据から解かれると思ってなぁららまぁその考えは失敗じゃった。嫌いになるどころか、なるは更に権利の腕を上げたしのぉ」

「そうなの?」

「すなまい···お前には辛い思いをさせた」

「···すまないじゃないわよ」


頭を下げるお父さんの頭上からする少し棘のある声。


怒っているお母さんだった。



「あなたの不器用な優しさでなるがどんな思いしたと思っているの?危うくこの子、二度と剣を握ることが出来なくても仕方ない身体になってしまうところだったのよ?そこんとこわかってる?」

「·····」


うわぁ···お母さんガチギレじゃん。あんなに怖かったお父さんに同情できるレベルじゃん。


「お父さん、私、あの日のこと全く許してないよ。でも剣を握る意味を考える時間を与えてくれてありがとう。あと私···潮崎家の家督継がないから、権利を放棄するから。こんな昔の···女を舐め腐った家系の道場なんて潰れてしまえばいいと思ってる」



ずっと考えてた。



「ふふ、いい案じゃ。なる家督の事はもう大丈夫じゃ。あとあの時、余計なお世話してすまんかったのぉ」

「家督の事は大丈夫って?···え?ちょ、なんで大輝兄ちゃんがここにいるの?」

「なる、大輝はお前の実の兄じゃよ」

「···は!?」



なんで、一難去ってまた一難あるのかな···





2年越しの親子喧嘩
(どういうこと···?)

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