9.屯所襲撃事件3
「こんばんは」

「美咲···ちゃん?」


私の首筋に刀を充てている美咲に驚きを隠せない近藤さんと土方さん。沖田さんは黙ってこちらを睨んでいる。



「気づくの早すぎです。でもいっか···。今から皆さんの目の前でなるちゃんを殺します!」



演技力凄いわ、主演女優賞狙えるよ美咲。
本性出す前はあんなにお淑やかだったのに。


「···っ!!」


後ろにいる大男が肩の傷を押す。


マジでふざけんな!!


「おい···」

「沖田···さん」


今まで聞いたことの無い声を響かせながらこちらへ近づいてくる沖田さん。


「これ以上近づいたらなるちゃん死にますよ」

「てめぇがそいつの首跳ねる前に俺がテメェらを殺す」



沖田さんの瞳は瞳孔が開いていて物凄く怒っているのがわかる。


正直、あんな沖田さんを見るのは初めてだから怖い。でも私のために怒ってくれているのなら嬉しいかな···。


沖田さんが剣を構える。


「なる!目ェ瞑れ!」


沖田さんの言葉通り私は目を瞑る。

後ろにいる人の気配が無くなったと同時に美咲の苦痛を含む声が聞こえる。そして私は誰かに抱きとめられる。この匂いは、沖田さんだ。



「総悟ォ!なるちゃん!」


私を救出したのを確認し、近藤さんたちが駆け寄ってくる。
沖田さんはスカーフを外し、私の傷に押し当てて隊服で縛り上げる。


「···ん!ったぁい!!」

「我慢しろィ···」


止血をしてくれているのは分かるけど痛いもんは痛い。


「旦那···なるのこと頼みまさァ」

「あぁ」


私は助けに来てくれた銀ちゃんたちに細かい刀傷を手当てされながら、残りの攘夷浪士たちを粛清する沖田さんたちを眺めている。


「大丈夫アルか!?」

「うん痛いけど大丈夫。ごめんね、こんな時間に」


みんなの姿をみて安心したのかな、目の前が霞む。血を流し過ぎたのかな?


ペチペチペチ


銀ちゃんが軽く私の頬を叩く。地味に痛い。


「おい、まだ目ェ開けとけ···閉じんな···死ぬぞ」

「まだ死にたくない···」


ふと銀ちゃん越しに見えたのは隙をついて逃げようとする美咲。


「···っ!逃げんなっ!」


私は力を振り絞って立ち上がり美咲を追う。


「なる!」

「バカ!!その体で動くんじゃねぇ!!」


神楽と銀ちゃんの制止を振り切り、私は立ち上がった時に拾った刀を握り直す。


握力、もうほとんどない


でも今ここで美咲を斬らないと···いつかまた屯所を襲う。


「死に損ないの癖に!」


美咲が刀を持って振り返る。
私は美咲が振り下ろした攻撃を避け、痛みに耐えながら左手で美咲の腕から刀を奪い取る。


”踊りは流れるように、自然体に”


ありがとう···二刀流を確立出来たのも、こうやって握力がほとんどない状態でも刀を扱えるのは美咲のおかげだよ。


私は踊るように2本の刀で美咲を斬った。


傷は浅いけど、斬られたショックなのか美咲は倒れてしまった。


あぁ、ダメだ。私もやばいかも···。


「美咲ィ!!」


大男が美咲の元へ駆け寄る。沖田さんに殺られていたと思ったけど、違ったのか。


「てめぇ!」


大男は私に刀を向ける。


「なるちゃんは下がってな···」


銀ちゃんたち万事屋が私を庇うように立ち塞がる。


「嫌。あいつは私に用があるみたいなの」

「あの男嫌いアル。自分はなるを散々痛めつけたくせに、自分の女が倒れたら逆ギレとかクソアルな」

「そんなクソみたいな男は僕達が退治しますよ」

「だから私が!」

「それ以上闘ったらテメぇ、左肩動かなくなるし、死ぬって言ったろ。足でまといだ、クソガキ」


そんなことは分かってる···分かってんだよ、銀ちゃん。


「旦那ァ···そいつァ俺の獲物でィ···。俺の女痛めつけたこと後悔させてやりまさァ」

「けっ!カッコつけてんじゃねぇーヨ!」

「チャイナは黙ってろィ···」


私の頭に手を置いて肩に刀を預けながら大男を睨む沖田さん。


沖田さんの睨みに一瞬大男が怯んだ瞬間、あっという間だった。沖田さんの剣は大男を斬っていた。


「まだ死なせやせんで。あとでじっくり痛めつけてやりぁ」


一瞬で自分より大きな身体を持つ人を諸共しない強さ···かっこいい。


沖田さんが鞘に刀を終いこちらを振り向いた時、私は緊張の糸が切れたのか意識を手放した。





襲撃事件の幕切れ
(急いでなるちゃんを病院へ運べ!)

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