乾いた音が耳に入る。
竹刀と竹刀がぶつかる音。
「何を迷う、何に怯える」
「迷うぐらいなら刀を...剣を握るな...」
「中途半端な覚悟なら...」
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「...やめっ...っ」
嫌な夢をみた。夢から覚める時、身体中に電流が走ったように痛い。いや、身体中がミシミシと痛い。というかここは何処だ。
「...なる!」
「...沖田さん」
私の声を聞きつけたのか、目の下に隈をつけた沖田さんが慌てるように私の元へやってきてくれた。それだけでさっきまで沈んでいた気持ちが温かくなって無性に泣きたくなった。
「ここって...」
「病院でィ。おめぇ...出血多量で死ぬとこだったんでィ...」
「マジでか」
まさかそこまで血が出ていたとは...。自分の事なのに少し他人事のように感じてしまい、イマイチピンと来ない。
「沖田さん...心配かけてごめんなさい」
きっとこの人は助けられなかったことに対して自分を責めてるに違いない。
「謝んじゃねェ。惨めな気持ちなんだろ」
「沖田さん、あのね、守ってくれてありがとう...大男倒したとき、すごいカッコよかった」
沖田さんは私のベッドの脇にあるパイプ椅子に座り私の手を握り下を向いている。
あ、点滴してる。
沖田さん見るために下を向いた時、私の手に繋がれている点滴の管を見つけた。
死にかけたってことはこの人、またミツバさんのこと思い出してなければいいな。
「沖田さん」
私は手を握られていない方で沖田さんの手の上に掌を重ねる。
「私は、沖田さんを置いて何処にも行かないよ。だから今度こそはちゃんと私を守って下さいね。大好きです」
「...馬鹿か、アホなる」
大好きって言った途端顔を上げた沖田さんは、嬉しそうな顔をしていて、凄く幸せな気持ちになった。レア顔だなぁ...
「なる...、今度は俺にちゃんと守られなせぇ」
沖田さんの顔が近づく。
あぁ、キスされるのか。私は静かに日を閉じる。
唇に触れたのはほんの一瞬だけ。
「なんでィ、物足りないって顔して」
「してないです...」
ジト目で沖田さんを睨むと、そっと後頭部に手を添えられる、唇に触れるだけのキスを角度を変えて何度もする。
付き合ってからキスなんて3回ぐらいしかしてなくて、でもこう、触れ合うようなキスなんて1回しかしたことないから、すごい恥ずかしい。
「顔真っ赤でさァ...」
「うっさ...っ、ん...むぅ...」
顔が赤い事を指摘され言い返そうとした隙をついて沖田さんは唇を重ね空いた隙間から舌を侵入させ私の口内を犯し始める。
このキスは本当に苦手。どうやればいいか分からないし、息の仕方もわからない。なにより、気持ちよくてボッーとしてしまう。っていうか、沖田さんに舌を吸われたり、上顎を舐められたりする度に身体がビクッてなってどうしようもなく恥ずかしくなる。
それに私の甘ったるい声や唾液同士が混ざり合う音とが耳に響いて、泣きそうになる。
「...っん」
最後に唇を舐められ沖田さんは私から顔を離した。
「泣くほど気持ちよかったか?」
「わ...わかんない」
なんでこの男はこんなにも余裕なのだ。私より1つ上なだけで偉く大人に見えるし、ムカつく。
「ンな顔で見んじゃねぇや。歯止め効かなくなりゃ...」
「...えっ!?」
「分かりやした?」
耳元でいつもより低く言われた言葉。その意味を考えるだけで頭がパンクしそう...
「近藤さんたち呼んでくる」
「うん...」
アレってそういう意味だよね?
幸せな時間
(屯所に帰ってきたらお前を抱く)