土方さんが無期限の謹慎処分になって数日。私は伊東さんに呼び出されていた。
土方さんはあのあと重要な会議に遅れてそれをきっかけに無期限の謹慎処分が下ったらしい。本当は切腹だったらしいが、近藤さん含め他の隊士たちが止めてくれたらしい。
会議に遅れたのは沖田さんのせいなのだが、あとが怖いので言わなかった。うん、ごめん、土方さん。
そんなことは置いといて、私は伊東さんからの無言の圧力を受けている。
「な、なんでしょうか」
「君は一体何者だ?」
「え、人間ですけど」
え?天人に見えているのだろうか···。
「ふ···それはわかっている」
人間って分かってるなら聞かないで欲しい。
きっと、聞きたいことはそういう事じゃないんだろうな。まぁ、分かっててはぶらかしたんだけど。
「言いたくないらしいな···。まぁいい。率直に聞こう。君は僕派か?それとも土方派か?」
選択···
「どちら派でもないです。私は、私が信じたい道を進みます」
「それが···答えか?」
「はい。私ははっきり言いますけど、伊東さん、あなたが苦手です。だから伊東派に付くことはないです。あなたのその自分よりも弱い人間、馬鹿な人間、価値のない人間その他諸々を見下すような目が嫌いです。でもって、土方さんは怒りっぽいところや、頑固なところ、ニコチンマヨネーズが嫌いです。つもりどっちも嫌です。私は嫌いな人でも、そこに笑っていられる場所があるならまぁ、そっちを選びはしますけど···」
「面白い答えを言うな。つまり君はどちらの味方につくつもりもないと?」
「強いて言うなら、ゴリラ派です」
ゴリラ派···基近藤派。
ある意味土方派になるのであろうけど、敢えて土方派とは言わない。沖田さんと約束したから。
「伊東さん。あなたが真選組を壊そうとしても彼らは絶対に負けませんから」
これから、真選組は歴史と同じ道を辿ることは明白。伊東さんらが死ぬか、歴史を覆して近藤さんたちが死ぬかどちらに転ぶかはわからない。でも1つ言えるのは、近藤さんは殺させない。
「今日は沖田くんも私と近藤さんらと共に隊士募集について行くよ。買い出し途中気をつけるんだよ」
「忠告ありがとうございます」
たかが女中1人に暗殺仄めかすなんて···私、結構邪魔者として扱われてる?忠告されたし、マジで気をつけよ。私にとって、買い出しは死亡リスクが1番高い仕事の1つだ。
今日の買い出しは夕方から行ったおかげでスーパーを出た時には辺りは真っ暗だった。
そんな中帰る途中に見慣れた3人組と変な格好をした上司を見つけた。変な格好しているのは無期限の謹慎処分中の土方さんで、見慣れた3人組、万事屋にボコボコにされていた。なんかそんな姿見たくなかった。
「銀ちゃん」
「お、いい所になるちゃんじゃねーの」
「おいなる、こいつキモいネ!」
「···ドン引きです」
ボコボコにされている理由を神楽から聞き、私は軽蔑の目を土方さんに向ける。
「潮崎氏!その瞳はなんでござるか!?は!興奮してきたァ!!」
うわ、マジで妖刀に魂乗っ取られてる···。私がドン引きしていたら、私の横に真選組のパトカーが勢いよく止まった。
「ようやく見つけた!!大変なんです副長ォ!!スグに···スグに隊に戻ってください!」
「なにかあったんですか!?」
「山崎さんが···山崎さんが!!何者かに殺害されました」
···始まった。
伊東さんの真選組潰しが···。
「下手人はまだ見つかっておりません。とにかく!1度屯所に戻ってきてください!なるちゃんも危ないから一緒に!」
「···っ!」
あ、これは私も殺されるパターンだ···
「ぎ、銀ちゃん···たす」
「副長も···潮崎も···山崎の所へ」
ほらきたァァ!!
背中の方から数人の殺気を感じた···。
殺されると思った瞬間、銀ちゃんが私のお腹に腕を回し持ち上げ、もう片方で土方はんの襟元を持って走る。
「いたたたたた坂田氏ィ!!Gジャンの肩の部分が食いこんでるぅぅ、ちぎれるぅ腕が!さながらベルゼルクのガッツが如く腕がちぎれそうだ」
「うるせぇぇぇぇぇ!!てめっ黙ってろ!!」
路地裏を走る私たちの目の前に猛スピードで走ってくるパトカー。神楽が1人でパトカーを止める···いや···神楽ヤバっ!
銀ちゃんが運転席にいた隊士を倒し、私たち5人はパトカーに乗り込み逃げる。無線から聞こえる伊東派の隊士であろう声がパトカーに響く。
「近藤暗殺を前に不安要素は全て除く。近藤土方両者が消えれば真選組は残らず全て伊東派に恭順するはず。あと女中の潮崎も殺せ。いち早く近藤暗殺を悟ったのは潮崎だ。まぁただの女中だ。いつでも殺せる。伊東派以外の隊士に気づかれるなよ。あくまでも攘夷浪士の犯行に見せかけるのだ。この段階で伊東さんの計画が露見すれば真選組が真っ二つに割れる」
歴史の流れを変えたくないと思い、きっと抗争が起こってもみんななら大丈夫と思っていたけど、実際史実上に基づいて近藤さんの暗殺計画が実行されているのを聞かされていると、なんて中途半端なことをしたんだろうと自分自身に嫌悪感を抱く。
フロントミラー越しから銀ちゃんの紅い目と視線が合う。
あー、これは後悔すんじゃねぇって目だ。
後悔しても遅い
(···沖田さん)